Research Results 研究成果

環境中の硫黄量に応じたグルコシノレートの分解機構を発見 -発ガン予防成分はアブラナ科植物の硫黄貯蔵物質!-

2020.02.13
研究成果Life & HealthEnvironment & Sustainability

 九州大学大学院農学研究院の丸山明子准教授らの研究グループは、植物が硫黄の少ない環境におかれた時にグルコシノレートの分解に働く酵素としてß-グルコシダーゼ(BGLU)28、BGLU30を発見し、グルコシノレートの分解が硫黄の少ない環境における植物の生長維持に不可欠であることを明らかにしました。
 硫黄は動植物の生存になくてはならない元素です。植物は硫黄を硫酸イオンとして取り込み、アミノ酸やタンパク質など、人間にとって有用な化合物を合成しています。アブラナ科植物が作るグルコシノレートは、病害虫を寄せつけない働きをするとともに、発ガンを予防します。硫黄の貯蔵にも働くと考えられてきましたが、硫黄源としてリサイクルされる仕組みや植物が生存を維持する上でのグルコシノレート分解の役割は解明されていませんでした。
 研究グループは、硫黄が不足した時に遺伝子発現の上昇するBGLU28、BGLU30に着目し、これらを欠損させた植物では硫黄が不足してもグルコシノレート量が維持されることを見出しました。この時、植物の生育は著しく抑制され、タンパク質中の硫黄量が減少したことから、植物の生長維持にグルコシノレート分解が不可欠であると考えられます。環境条件に応じた植物の硫黄リサイクル機構、有用化合物の蓄積量調節に関する新しい発見です。アブラナ科野菜には、白菜やキャベツ、小松菜、ブロッコリなど多くの種類があり、食べる病気予防が期待されています。この成果を作物中のグルコシノレート量を調節する技術に活かしたいと考えています。
 本研究成果は、2020年2月13日(木)に国際学術雑誌「Plant and Cell Physiology」にオンライン掲載されました。本研究は、科学研究費補助金(JP20770044、JP17H03785)、日本応用酵素協会酵素研究助成金、特別研究員奨励費(JP16J40073)の支援を受けて行われたものです。

(参考図)BGLU28、BGLU30を欠損した植物(bglu28/30)では、硫黄が不足しても野生型株(WT)のようにはグルコシノレート量が減少しない(左上)。同時に植物の生育が著しく抑制される(左下)。タンパク質合成への硫黄の再分配が滞る結果、生育が阻害されたと考えられる(右)。BGLU28、BGLU30を介したグルコシノレート分解・硫黄の再分配が硫黄の限られた環境での植物の生長維持に不可欠であることが分かる。

研究者からひとこと

アブラナ科植物特有の化合物であるグルコシノレートが飢餓や病害防除の両方に働くというのは、リバーシブルのお洋服のようにエコな仕組みで、植物の賢さを感じます。作物中の有用化合物(機能性化合物)を増やすヒントがこのような基礎研究から見出されます。まだまだ多様な働きを持っているかもしれないグルコシノレート。今後の研究成果にご期待ください。

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