Research Results 研究成果
エコチル調査福岡ユニットセンター、国立成育医療研究センター社会医学研究部の 森崎菜穂部長らと九州大学 大学院 医学研究院 保健学部門・産科婦人科の諸隈教授らの研究チームは、環境省の「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」の約10万人の妊婦の情報を用いて、日本人女性の妊娠週数別体重増加の分布、および現行の「妊娠中の体重増加の目安」を満たすために必要な妊娠週数別体重増加量を妊娠前体格別に算出しました。本研究の成果は、令和3年8月28日に疫学分野の学術誌Journal of Epidemiology (Online ahead of print)に発表されました。また、本学術論文の結果に基づいた「妊娠中の体重増加曲線」が国立成育医療研究センターのホームページに公開されました。
妊娠中の体重管理については、厚生労働省などから妊娠10ヶ月の出産直前の目安となる体重の数値が示されていますが、具体的に何週にどの程度の体重増加が望ましいかについての参考になる妊娠週数ごとの体重増加値は今までありませんでした。これらの結果は、妊婦自身や医療従事者が、妊娠中の体重管理を行うのに役立つ資料になると期待されます。
※本研究の内容は、すべて著者の意見であり、環境省及び国立環境研究所の見解ではありません。
発表のポイント
研究の背景
妊娠週数別体重増加曲線は個別の体重管理に有用であることが海外でも言われていますが、日本人向けのものは存在しませんでした。また、2021年3月に「妊産婦のための食生活指針」※2が改定され、その中で「妊娠中の体重増加指導の目安」が示されました。この中で、妊娠前の体格ごとの体重増加量が示されていますが、どのように体重増加の指導をすればよいのか、あるいは自身の体重をどのように日々管理すれば良いのか困っている医療従事者や妊婦がいることが想定されました。
そこで、妊娠中にどのように体重を増やせばよいか、医療従事者が日本人女性に指導するための妊娠週数別体重増加曲線を作成することを目的に本研究を実施しました。
妊娠中の体重増加指導の目安* | |
BMI kg/m2** | 体重増加量指導の目安 |
<18.5 | 12~15kg |
18.5≦ ~<25 | 10~13kg |
25≦ ~ <30 | 7~10kg |
30 ≦ | 個別対応(上限5kgまでが目安) |
*「増加量を厳格に指導する根拠は必ずしも十分ではないと認識し、個人差を考慮したゆるやかな指導を心がける。」
産婦人科診療ガイドライン産科編2020 CQ10より
**体格分類は日本肥満学会の肥満分類に準じた。
研究内容と成果
エコチル調査に参加している96,631人の妊婦の母子健康手帳から転記された妊娠中の体重を用いて、妊娠前BMI(体格指数)別の妊娠週数別体重増加の分布を制限付き3次スプライン(3次の多項式の区分的関数)を用いたベイズ混合モデル(一般化線形モデル)を使用して計算し、妊娠40週で「妊娠中の体重増加指導の目安」に定められた範囲内の体重増加を得るには、妊娠5-39週にどれくらい体重が増えていればいいのかを算出しました。
その結果、妊娠中の体重増加の分布は妊娠前BMIによって大きく異なり、妊婦の背景によっても多少異なる(多胎妊娠、若い妊婦、基礎疾患がない妊婦では体重増加が多い)ことが分かりました。
また、BMI 18.5未満、18.5-25、25-30、30以上のそれぞれの妊婦で、妊娠30週で8.4~11.1kg、6.4~9.1kg、3.8~6.5kg、1.9kg未満、体重が増えている場合、妊娠40週に「妊婦の体重増加指導の目安」に定められた範囲内の体重増加の軌道に乗っていると推定されました。
今後の展開
本研究の結果は、妊婦自身や医療従事者が、妊娠中の体重管理を行うのに役立つ資料になると期待されます。
一方で、今回作成した体重増加曲線はあくまで出産時に「妊娠中の体重増加指導の目安」を満たす体重増加を図示したものであり、軌跡どおりの体重増加を描いていることが妊娠後の経過が順調であることを保障しているものではありません。
また、今回作成した体重増加曲線は2011年1月~2014年3月にエコチル調査に参加した妊婦の情報をもとに作成されているため、2021年3月以降に「妊娠中の体重増加指導の目安」で適正な体重増加に関する指導を受ける妊婦とは結果が異なる可能性があります。
このため、2021年の「妊娠中の体重増加指導の目安」の変更により妊婦の方々の体重増加や妊娠後の経過がどのように変化していくのかは今後の研究で調べていく必要があると思われます。
参考図