Research Results 研究成果

脳を覆う特殊な免疫細胞の成り立ちと特性を解明

~認知症や自閉スペクトラム症など脳の病気に関与する新たなプレイヤーの可能性~ 2022.04.21
研究成果Life & Health

ポイント

  • 脳は、単なる神経細胞の塊ではなく、多種多様な細胞によって、その重要な機能が維持されていますが、脳を構成する細胞の種類や特性の全容解明には至っていません。
  • 本研究では、髄膜などにおける脳境界マクロファージ(※1、2)という特殊な免疫細胞の存在を突き止め、その成り立ちや機能的な特性を世界で初めて明らかにしました。
  • 今後、脳境界マクロファージが担う役割を詳細に解析することで、脳の形成メカニズムや様々な脳疾患の発症メカニズムの解明につながることが期待されます。  

概要

 全身機能の司令塔として知られる脳は、神経細胞のみならず多種多様な細胞の相互作用によって、その高度な機能が維持されています。そのため、脳がどのような細胞によって構成され、各細胞がどういった特性を有しているのか理解することは、脳の機能を正確に理解するために必要不可欠であり、また脳疾患の発症メカニズムの解明へ向け、重要かつ喫緊の課題であると考えられます。
 本研究では、これまで全く研究が進んでいなかった脳境界マクロファージ(※1、2) という特殊な免疫細胞の動向を正確に捉え、その成り立ちや細胞特性を解明することに成功し、それに加えて脳の形成に関わる新たな仕組みを見出しました。
 九州大学大学院薬学研究院の増田隆博 准教授およびドイツ・フライブルク大学のMarco Prinz教授らを中心とした国際共同研究チームは、単一細胞解析法やFate-mapping法という最新研究技術ならびに独自開発した遺伝子改変ツールを駆使して、胎児から成体に至る幅広いライフステージにおいて脳境界マクロファージを詳細に解析し、それらが脳境界領域(※3)に定着する仕組み、さらにはそれら細胞が持つ遺伝子的また機能的特性を世界で初めて明らかにしました。
 今回の発見は、脳の形成メカニズムに新たな概念を付加すると同時に、認知症や自閉スペクトラム症といった多くの脳疾患の発症メカニズム解明に大きく貢献することが期待され、将来的には脳内免疫細胞を標的とした新たな治療法・新薬の開発に役立つことが期待されます。
 本研究成果は英国の国際誌「Nature」に2022年4月21日(木)(日本時間)に掲載されました。

本研究で詳細な解析をした脳境界マクロファージ(オレンジ)(※1)は、髄膜や血管周囲スペースといった脳境界領域(※3)に存在しており、脳の実質内に分布するミクログリア(緑)(※4)とは、全く異なる機能を有した特殊な免疫細胞であると考えられます。

用語解説

(※1) マクロファージ
全身の各組織・臓器に存在し、細菌や死細胞を貪食して除去する能力を持ち、その一方で組織の恒常性維持に重要な役割を果たしている免疫細胞。

(※2)脳境界マクロファージ
脳境界領域(※3)に存在するマクロファージの一種。

(※3)脳境界領域
脳の周囲を覆っている髄膜(軟膜・くも膜・硬膜)や、脳内血管の周囲に存在し脳脊髄液に満たされている空間、さらには脳脊髄液の産生組織として知られる脈絡叢といった脳実質とは区別される脳内領域のこと。

(※4) ミクログリア
脳内の主要免疫細胞で、マクロファージの一種。

 

論文情報

掲載誌:Nature

タイトル:Specification of CNS macrophage subsets occurs postnatally in defined niches

著者名:Takahiro Masuda*, Lukas Amann, Gianni Monaco, Roman Sankowski, Ori Staszewski, Martin Krueger, Francesca Del Gaudio, Liqun He, Neil Paterson, Elisa Nent, Francisco Fernández-Klett, Ayato Yamasaki, Maximilian Frosch, Maximilian Fliegauf, Lance Fredrick Pahutan Bosch, Hatice Ulupinar, Nora Hagemeyer, Dietmar Schreiner, Cayce Dorrier, Makoto Tsuda, Claudia Grothe, Anne Joutel, Richard Daneman, Christer Betsholtz, Urban Lendahl, Klaus-Peter Knobeloch, Tim Lämmermann, Josef Priller, Katrin Kierdorf, Marco Prinz*    (*責任著者)

DOI:https://doi.org/10.1038/s41586-022-04596-2

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