Research Results 研究成果

長引くかゆみ、何回も引っ掻くと神経で増えるタンパク質が原因!

~かゆみ治療薬開発への応用に期待~ 2022.05.09
研究成果Life & Health

ポイント

  • 長引くかゆみの原因のひとつは、かゆい皮膚を何回も繰り返して引っ掻くことで皮膚の炎症が悪化し、さらにかゆみが増すという悪循環。しかし、サイクルを生み出す仕組みは不明。
  • 本研究では、かゆい皮膚を繰り返し引っ掻くことにより神経でNPTX2(neuronal pentraxin 2)※1というタンパク質が増え、それがかゆみ信号伝達神経の活動を高めてしまうことを世界で初めて発見。
  • 今後、NPTX2を標的にしたかゆみ治療薬の開発につながることが期待。

概要

 かゆみを感じたとき、私たちはかゆいところを引っ掻きます。通常であれば、数回引っ掻くとかゆみは治まりますが、アトピー性皮膚炎や接触皮膚炎などに伴う慢性的な強いかゆみだと、何回も繰り返して引っ掻いてしまいます。それによって皮膚の炎症が悪化し、その結果、かゆみがさらに増すという悪循環となってしまいます。これは、「かゆみと掻破(そうは)※2の悪循環」と呼ばれ、かゆみを長引かせる大きな原因と考えられていますが、そのメカニズムはまだよく分かっていません。
 九州大学大学院薬学研究院/高等研究院の津田誠主幹教授、薬学府の兼久賢章大学院生(当時)、岡山大学、ジョンズ・ホプキンス大学(米国)の研究グループ※3は、何回も繰り返し皮膚を引っ掻く、アトピー性皮膚炎や接触皮膚炎モデルマウスで研究を行い、皮膚からのかゆみ信号を脳へ送る脊髄神経(かゆみ伝達神経)の活動が高まっていること、皮膚への引っ掻き刺激を抑えるとそれが起こらないことを見いだしました。さらに、皮膚を繰り返し引っ掻くことで、皮膚と脊髄をつなぐ感覚神経でNPTX2というタンパク質が増え、これが脊髄のかゆみ伝達神経に作用すると、その神経の活動が高まってしまうことを発見しました。実際に、NPTX2を無くしたマウスでは、脊髄のかゆみ信号伝達神経の活動が低下し、かゆみも軽減しました。この研究成果から、皮膚炎モデルマウスで見られる長引くかゆみには、かゆい皮膚を何回も引っ掻くことで作られる神経のタンパク質NPTX2と、それによるかゆみ信号伝達神経の活動の高まりが原因であることが明らかになり、慢性的なかゆみのメカニズムの解明と、かゆみを鎮める治療薬の開発に向けた大きな一歩となると考えられます。
 本研究成果は、2022年5月2日(月)午後6時(日本時間)に国際科学誌「Nature Communications」のオンラインサイトに掲載されました。

かゆい皮膚への引っ掻き刺激により、感覚神経でNPTX2というタンパク質が増えてきます。それが脊髄へ運ばれ、かゆみ伝達神経に作用し、その活動を高めてしまいます。結果、強いかゆみが生じ、また皮膚を引っ掻いてしまう。これが「かゆみと掻破の悪循環」を生み、かゆみを慢性化すると考えられます。

用語解説

※1: NPTX2(neuronal pentraxin 2)
神経細胞の活動が高まると作られるタンパク質。神経から放出された後、次の神経の細胞膜にあるグルタミン酸受容体をクラスター化し、その神経活動を高める働きがある。

※2: かゆみと掻破(そうは)
皮膚などのかゆいところを掻いてその部分が傷つくこと

※3: 研究グループ
本論文著者(全員)
九州大学大学院薬学研究院薬理学分野・高等研究院: 津田誠(主幹教授)
九州大学大学院薬学府薬理学分野: 兼久賢章(大学院生:当時)、古賀啓祐(大学院生:当時)、白石悠人(大学院生)、浅井こなつ(大学院生)、白鳥美穂(助教)
岡山大学学術研究院自然科学学域(牛窓臨海): 坂本浩隆(准教授)、前嶋翔(特任助教)
Johns Hopkins University School of Medicine: Mei-Fang Xiao(研究員)、Paul F. Worley(教授)

論文情報

掲載誌:Nature Communications
タイトル:Neuronal pentraxin 2 is required for facilitating excitatory synaptic inputs onto spinal neurons involved in pruriceptive transmission in a model of chronic itch
著者名:Kensho Kanehisa, Keisuke Koga, Sho Maejima, Yuto Shiraishi, Konatsu Asai, Miho Shiratori-Hayashi, Mei-Fang Xiao, Hirotaka Sakamoto, Paul F. Worley, Makoto Tsuda
DOI:https://doi.org/10.1038/s41467-022-30089-x

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