Research Results 研究成果

流行が作られるしくみ「同調現象」を、細胞の中で発見 ―細胞質流動の生成と逆転のメカニズム―

2017.03.14
研究成果Humanities & Social SciencesLife & HealthMath & DataPhysics & Chemistry

 細胞内の流れ(細胞質流動)は、人間社会の流行のように気まぐれに逆転することがあります。情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所の木村健二助教と木村暁教授らのグループは、九州大学大学院システム情報科学研究院の内田誠一教授らのグループと共同で、この「流れ」の生成と逆転のメカニズムを、遺伝学と数理モデルを用いた解析により明らかにしました。この成果は英国科学雑誌Nature Cell Biology に掲載されました。
 人間社会の流行とは気まぐれなもので、いつのまにか多数派と少数派の逆転が起こります。流行の生成と逆転の原動力には、自らの意見や行動を周りの変化に合わせる「同調現象」が深く関わっています。興味深いことに、線虫の受精卵では細胞質流動の流れの向きが気まぐれに逆転します。細胞内の流れは微小管が作るレールの上を物質が運ばれることによって生じるので、レールが一方向にそろうとより大きな流れが生じます。
 本研究では、細胞内に網目状に広がる小胞体が、微小管レールの方向性を同調させる「ネットワーク」の役割を担っていることを発見しました。さらに、微小管レールを人為的に長くすると流れの向きの逆転がほとんど起こらなくなることから、逆転の頻度が微小管レールの長さで決まることを突き止めました。すなわち、小胞体の動きが流れの同調効果を生み、微小管の長さが細胞質流動の逆転の頻度に影響するのです。
 細胞質流動は動物胚の発生や植物の成長に重要な役割を果たしています。本研究は、細胞質流動の生成と逆転のメカニズムを明らかにしたことで、細胞質流動が関与する初期発生のしくみの解明につながると期待できます。また、同調やその逆転を細胞内で操作できることを明らかにしたことから、人間社会と自然界の両方で見られる同調現象のしくみを明らかにする良いモデルケースとなることも期待されます。

[左] 人間社会における流行の生成と逆転。周りに同調しようとする働きにより全体がそろう(2段目)。しかし、気まぐれにより流行に飽きてしまう人が現れると、それにまた周りが同調し、まったく別の流行にそろう(4段目)。[右] 細胞質流動の生成と逆転。微小管がどちらに倒れるかで流動の方向が決まる。ある微小管が倒れると、小胞体の働きにより周りの微小管も同じ方向に同調する(2段目)。微小管は確率的に消滅し、新しい微小管が気まぐれ(ランダム)な方向に伸長する。周りの微小管がその微小管に同調すると、違う方向への流動が生じる(4段目)。

細胞質流動を生むための小胞体を介した同調効果を示すモデル図

線虫受精卵における小胞体とその動き
左列に線虫受精卵における小胞体の蛍光写真を示した(上段:正常胚、下段:小胞体の網目状構造を断片化した胚)。中列に連続写真の投影図を示した。動きを示すために各タイムポイントの蛍光像の色を変えて重ねて表示している。右列は白枠内の拡大図。流れの方向を矢印で示した。

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