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胚発生期における細胞増殖の制御機構を発見

2009.03.11
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 JST基礎研究事業の一環として、九州大学生体防御医学研究所の中山 敬一教授らは、受精後の胚発生期の細胞増殖が、p57と呼ばれるたんぱく質によって厳密にコントロールされていることを突き止めました。

 p57は、細胞増殖の速さを調節するp27というたんぱく質とよく似た構造をしており、両者は“双子”分子と言われています。中山教授らは以前にp27を持たないマウス(p27ノックアウトマウス))を作製したところ、細胞増殖が止まらなくなり、体や臓器が巨大化して、最終的にはがんができることを明らかにしています。実際に、多くのヒトがん患者でp27の機能が喪失しており、p27は代表的な「がん抑制遺伝子)」の1つと考えられています。ところが、p27と双子分子であるはずのp57を持たないマウス(p57ノックアウトマウス)も作ったところ、体が小さくなり、胚発生中に目の水晶体や骨、腸などに異常が出ることが分かりました。これらの異常は細胞増殖と関係ないように見えるため、p57はp27とは違う働きをしているのではないかと考えられてきました。

 本研究グループは今回、ノックインマウスという方法を用いてp57の遺伝子の場所にp27の遺伝子を人工的に挿入した遺伝子改変マウスを作製しました。このマウスの体内では、p57の代わりにp27が機能する仕組みになっています。このマウスの解析から、p57のほとんどの機能はp27で補うことができることが分かり、p57はp27と同様に細胞増殖の速さを調節する因子であることが明らかとなりました。p57はある種の先天性疾患の原因遺伝子の1つと考えられていますが、細胞増殖を調節する機能を持つことが明らかになったことから、がんなどの疾患でも重要な働きをしていることが予想されます。今回の成果はこれらの疾患の発症機構の解明や、その治療への応用につながるものと期待されます。

 本研究成果は、米国科学雑誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」のオンライン速報版に掲載されました。

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