Topics トピックス

がん抑制遺伝子p53の新しい制御機構を発見

2009.01.30
トピックス
 JST基礎研究事業の一環として、九州大学 生体防御医学研究所の中山 敬一教授らは、がん抑制遺伝子p53によって誘導される細胞死を抑える新たな仕組みを発見しました。

 p53は、多くのヒトがん患者で機能が喪失している「がん抑制遺伝子」の最も代表的なものです。p53はアポトーシスと呼ばれる細胞死プログラムを活性化し、がん細胞を根絶することによって、がんに対する主要な防御機構として作用します。近年、染色体の構造変化によってp53の活性化が調節されている可能性が示唆されていましたが、その仕組みと生物学的役割についてはほとんど不明のままでした。

 本研究チームは今回、染色体構造を変化させる分子CHD8がp53の機能発現に極めて重要な役割を担っており、p53によって起こるアポトーシスを強力に抑制することを明らかにしました。つまり、CHD8はクロマチン上でp53に結合して、そこにヒストンH1を呼び込むことによって染色体構造を変化させ、p53の機能を抑制します。従ってCHD8は、既に染色体上に結合している活性化p53すらも抑制できる“抗p53最終抑制機構”と考えられます。
 CHD8は胚発生早期に高発現しており、CHD8のないマウスは、胚発生期にp53の暴走によるアポトーシスが起こり、死亡します。p53の機能が喪失するとがんになるリスクが高まりますが、一方でp53の過剰な活性化は生存にとって危険であり、適度なp53の活性を調節するのがCHD8の重要な役割だと考えられます。
 また、CHD8が増加するとがんになることが予想され、今回の成果はがんの発症機構の解明につながると同時に、その治療への応用が期待されます。

 本研究成果は、2009年1月18日(米国東部時間)に英国科学誌「Nature CellBiology」のオンライン速報版で公開されています。

プレスリリースはこちら