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医学研究の面白さと深さを伝え続けたい。“医学研究の面白さと深さを伝え続けたい。 九州大学病院 病院長、九州大学 主幹教授、医学研究院 教授 赤司 浩一

九州大学病院 病院長、九州大学 主幹教授、医学研究院 教授

赤司 浩一

“開講100年超の歴史を誇る“総合内科教室”の重鎮で、がん治療の最前線と最深部を見つめ続ける世界レベルの研究者。特に、造血器に発生するがん幹細胞の先駆的研究で知られる。

開講100年超の歴史を誇る“総合内科教室”の重鎮で、がん治療の最前線と最深部を見つめ続ける世界レベルの研究者。特に、造血器に発生するがん幹細胞の先駆的研究で知られる。

プロフィール

福岡県久留米市出身。文系・理系ともに得意で弁護士にも憧れたが、内科医の父から「文系に進めば理系には関われないが、理系に進めば、特に医学部では両方できる」と説得され、あらためて医師を志す。1985年九州大学医学部卒業後、九州大学医学部第一内科(現病態修復内科)、九州大学病院輸血部、原三信病院で骨髄移植を主とする臨床に従事。1994年スタンフォード大学発生生物・病理学への留学を経て、2000年よりハーバード大学ダナファーバー癌研究所腫瘍免疫学准教授として研究室を主宰したのち、2004年九州大学病院・遺伝子細胞療法部教授に着任。2009年より九州大学医学研究院病態修復内科教授。

何を研究してるの?

研究スタッフからも「フランクで話しやすい」と親しまれている赤司先生。

九州大学病院の中には一般人立入禁止の研究室が。日々実験、検証を行う

研究スタッフからも「フランクで話しやすい」と親しまれている赤司先生。

私が担当する病態修復内科では、血液・腫瘍・心血管・免疫・膠原病・感染症などの各分野を統合し、総合内科的な視点を重視した臨床を行っています。特徴的なのは専門領域のみに限定せず、多様な角度から人体を捉えた上で各分野の臨床・研究を進めている点で、当教室の初代教授である稲田龍吉先生(ワイル病病原体の同定とその制御法の確立によりノーベル賞候補)から連綿と続く伝統です。

九州大学病院の中には一般人立入禁止の研究室が。日々実験、検証を行う

私は幼少期から、内科医だった父や、『愛と死を見つめて』など病気や医療をテーマにした映画・ドラマの影響を受け、がんに強い関心を持っていました。医学の道へ進んだ当時、がんに関する研究で最も先進的だった分野が血液病学で、なかでも盛んだった白血病やリンパ腫などの造血器腫瘍に興味を持ちました。以来、今日まで一貫して血液内科学に携わり、特に白血病・リンパ腫を中心とするがん幹細胞研究と、再生医療としての造血幹細胞移植術を専門にしています。

ヒトの血液細胞を構成する赤血球や白血球、血小板など、多彩な細胞のすべてが骨髄内の造血幹細胞から造り出されるのと同様に、がん組織にもその源となるがん幹細胞が存在します。私たちの研究の特徴は、多様な細胞群で成り立っているがん組織全体ではなく、その源であるがん幹細胞に注目している点です。がん幹細胞がなぜ生まれるのか、どのように維持されているのか。そうした謎を解明し、がん幹細胞を根絶できる新しい技術を開発することが我々の研究の目的です。

最近の大きな成果のひとつは、ヒト急性骨髄性白血病幹細胞に高い頻度で発現する特異なたんぱく質、細胞表面分子TIM-3の存在を突き止め、それを認識するTIM-3抗体を作成することにより、白血病幹細胞を根絶し得る技術を開発したことで、その実用化に向けて医薬品会社との共同研究を進めています。

研究科目の「魅力」はココ!研究科目の「魅力」はココ!

人類への貢献という使命人類への貢献という使命

病気は、神様が用意してくれた生命科学研究の知識を得る重要な機会です。得られた研究成果を基に最終的に病態へ介入して正常化させる、それこそが医学研究の最大の目的であり魅力といえます。ヒトという生命体の成り立ちを知ることは病気の征服のみならずヒトの存在や運命に繋がる、という事実も大きなやりがいです。全ての医学研究者は、多かれ少なかれこのような崇高なモチベーションに突き動かされていると思います。

がん幹細胞は急速に環境に適応して増殖する“進化型細胞”で、この研究分野には、例えばその代謝異常がエピゲノム変化を通じてゲノム変異を誘導したりするという通常の「セントラルドグマ」の枠に収まらない複雑な生命科学領域が広がっています。それらを明らかにするための網羅的な解析やシングルセルレベルでの解析、病理学的視点に基づく位置情報解析などが技術的に可能となるなど、モチベーションを支えるためのテクニカルツールが、現在次々と開発されています。この恵まれた研究領域においてヒトの検体を用いて研究できる点が大きな魅力です。

医学研究というとすぐ治療と結びつけて考える人が多いのですが、応用研究だけでなく、基礎から臨床まであらゆる段階での研究が重要であることは明らかです。医学研究者は誰もが「人類への貢献」という使命を念頭に研究に励んでいます。私もそのひとりであり、これからも次世代に医学研究の面白さと深さを伝えて続けていきたいですね。

DAILY SCHEDULEDAILY SCHEDULE


OFFの1コマ

稀に時間がある夜は、自宅のオーディオルームで大好きなブルゴーニュワインを片手に音楽鑑賞。マニア垂涎、超重量級のターンテーブル(マイクロ精機製)とスピーカー(ウェストレイクモニター)でクラシックからジャズ、フュージョン、歌謡曲に至るまで多彩なジャンルのアナログレコードを楽しむ。そのコレクションは数千枚にのぼり、希少品をオークションで購入することも。近年はハイレゾなどデジタルで聴く機会も多い。稀に時間がある夜は、自宅のオーディオルームで大好きなブルゴーニュワインを片手に音楽鑑賞。マニア垂涎、超重量級のターンテーブル(マイクロ精機製)とスピーカー(ウェストレイクモニター)でクラシックからジャズ、フュージョン、歌謡曲に至るまで多彩なジャンルのアナログレコードを楽しむ。そのコレクションは数千枚にのぼり、希少品をオークションで購入することも。近年はハイレゾなどデジタルで聴く機会も多い。

先生の必須アイテムはコレ!

iPad Pro

発売後に即購入。メールチェックにも使うなど常に携行する。特にアップルペンシルとデジタルノートは、講演先でのメモ書きや保存などに重宝。

万年筆

「大事な発想をする時はアナログに限る」と、万年筆を高校時代から愛用。一番のお気に入りは、25歳で医師となって初めて自分で購入したペリカンの旧西ドイツ製万年筆(写真手前)。紛失しないよう、主に研究室で使用。

腕時計

アメリカから帰国後に購入した、イタリアはパネライの機械式クロノグラフ。「寝る時以外はほとんど身につけています」。ガンガン使えるステンレス製で、ストップウオッチ機能を装備。特に、30分計はプレゼン時間などを計るのに最適。

学生へのメッセージ

自己表現力と人間力を高めよう

学生さんと接していて感じるのは、プレゼンテーションとコミュニケーションの能力が不足しているということです。例えば、恋する人が相手にラブレターを書いたりデートに誘ったりすることは、一世一代のプレゼンテーションといえますが、最近はそうしたこともメールやLINEなどで、心が傷付く事を避けながら軽く済ませてしまう傾向にあります。このような通信手段の簡便化は、人間と人間との繋がりを作るための基本的な技術の習得に大きな負の影響を与えていると思います。文章力や日本語力が試される機会は、医学界でも他分野でも極めて多く、書面だけで勝負が決まることも決して珍しくありません。英語も大切ですが、正しく美しい日本語を意識して書いたり話したりする機会を増やし、自己表現力と人間力を高めてほしいですね。

取材日(2016.8)

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