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必要な物質を体内で合成しています。この“代謝”は糖やタンパク質など、様々な分子の活動です。分子の活動を、生体の中で直接調べることができれば、それに関連する病気の早期診断やメカニズムの解明につながります。浜瀬 具体的には、どのようなテーマで研究を進められているのですか。山東 大きく2つのテーマを研究しています。一つは「分子イメージング」。これは、体の中の分子を、体を切らずにそのまま見ようというものです。今までは、蛍光法という手法で調べていましたが、この方法では、光が体の奥まで届かなかったのです。そこで我々は、核磁気共鳴[※1](以下、NMR)の技術に着目しました。木下 NMRは、一般の病院にあるMRIの技術と同じものと考えていいですか。山東 正確に言えば、MRIは、NMRの現象を利用して生体内の情報を画像化する方法のことです。一般的には、人の体の中が見えると思われていますが、そこに見えているもののほとんどは水です。体の中には大量の水があって、それを撮像していると、臓器が浮かび上がってきます。それを見ているのです。しかし、水以外の分子を見ようと思っても、感度が低すぎて見ることができません。そこで我々は、核偏極技術で感度を上げる方法に着目しました。この技術を用いれば、感度は数万倍高くなります。方法としては、数ケルビン(約マイナス270℃)の極低温でなければできないので、一気に溶かして室温に戻し、感度の高いうちに体に投与して撮影する必要があります。しかし、その感度の高い状態(=偏極寿命)は長くても数十秒しか維持できないという大きな課題がありました。つまり、原理的には画期的な高感度化が期待出来るけれども、偏極寿命が短いため、実際の応用は限定されてしまうという状況だったんです。しかし、ごく最近ですが、約800秒まで、偏極寿命を持たせる分子構造を発見することができました。木下 それはすごいですね。山東 なぜ長くなるのかはまだ解明できていませんが、その理由がわかれば、もっと偏極寿命を伸ばせる可能性があると思います。また、核磁気共鳴のカギとなる分子構造にカルシウムを認識する部位を組み込んでやると、カルシウムの結合によって核磁気共鳴のシグナルが変化し、カルシウムを検出できることがわかりました。これは、細胞レベルでよく使われる蛍光シグナルを発する化学センサーのコンセプトと同じです。人の体など、高次の状態で分子を見ることができれば、病気になる前に分子レベルで調べ、予防医学の分野に役立てることができます。木下 先生の研究の全体像を教えていただけますか。山東 大きく言えば、生命現象の理解と疾病治療への貢献を目的に、生命の分子レベルの研究を行っています。見落とされがちですが、人の体も化学分子で構成されています。例えば、生命は“代謝”によってエネルギーを作り出し、[研究の概念図]生命現象の理解と疾病治療に貢献する生体分子化学。体の中の化学分子に着目し、生体分子の活動を調べる分子イメージング、標的分子を認識して結合する機能性核酸アプタマーを利用した核酸医薬など、化学に基づいた医学生物学研究を進めている。Front Runner ふろんとランナー 山東 信介体の中を切らずに調べる分子イメージング。生体化学分子分子イメージング分子標的医薬体を傷つけずに生体分子の活動を調べるDDS薬物送達機能性核酸(アプタマー)バイオセンサ疾病治療人工抗体標的に結合する機能性核酸“アプタマー”を用いた生体機能イメージング疾患イメージング脳細胞から放出される化学分子代謝、薬物効果の 直接イメージング疾病早期診断高感度分子プローブ10 Kyushu University Campus Magazine_2012.7

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