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概要

九大広報Vol.95

15日本とイラクの架け橋になる研究や活動を目指したい。――賞のお話が出たところで、先生は平成24年に第5回日本国際政治学会奨励賞を、そして今年の1月には第17回国際開発研究 ※大来賞を受賞されています。受賞された論文、著書についてお話していただけますか。山尾:平成24年の受賞論文は、博士論文をもとにした著書のダイジェスト版みたいなもので、平成15年に反体制派が政権を取るまでの50年間の軌跡を辿ったものです。そして、今年受賞した著書は、政権についた後に彼らがどういう風に国づくりをしているのかをまとめたものです。紛争の後に国家建設がどのように進んでいくのかという研究は、特にアメリカで盛んでした。ワシントンを拠点にするシンクタンクや大学が国家プロジェクトとして研究していたこともあるのですが、その研究内容はアメリカ中心主義的な考え方が前面に出ていて、私から見るとすごく違和感があったんですね。現地の人々の利害や考え方をほとんど考慮していませんでしたから。ですから、文化人類学や途上国の開発研究の蓄積を取り入れながら、現地の人々の視点をしっかり出した問題設定や物差しを作れるはずだ、と思っていたんです。そういう考え方が、この本を書き始めた頃のモチベーションになっていました。今回の受賞で、その部分が評価されたことは、私としてもすごくうれしいことです。――その受賞作について、ご苦労されたことなどがあれば教えてください。山尾:博士論文は無我夢中で書いていましたし、先ほどお話したような楽しい思い出がほとんどでしたので、それをもとにした論文が、国際政治学会から賞をいただいたときは、驚きの方が大きかったです。大来賞については、博士論文をまとめた著書を刊行した後に短期間で書き上げたことが、楽しくも苦労の多い経験でした。加えて、編者として別の本を作る作業が同時に進行していたので、何度もくじけそうになりましたね。それと、書き始めたころに娘が生まれて、子どもの世話をしながら書いていたので、個人的には感慨深い作品です。――先ほど先生がアメリカ側の視点に違和感を持たれたというお話がありましたが、中東の地域研究は、ほかの国でも盛んに行われているものなのですか。山尾:はい、かなり盛んに行われていますよ。もともと植民地支配を敷いていたヨーロッパの国では、中東研究はかなり重視されています。アメリカでも中東地域の専門家は多いですね。――先生の研究室には、留学生は在籍していますか。山尾:博士課程の大学院生が3人いますが、日本人は1人だけで、あとはイラクとコモロ連合からの留学生です。3人とも中東の政治を研究しています。日本で研究をするメリットがどれくらいあるのかという疑問はありますが、欧米でやると視点が限定されることは確かです。――日本で研究することで、いわゆる中立的な視点に立てるということですか。山尾:よく言えばそうですね。第三者的立場だからこそ見えてくるものは少なくないと思います。――研究に関して、今後の目標を教えてください。山尾:イラク研究は、日本では相当小さいサークルでしかありませんから、常に世界に通用する研究をやらなければいけないというのが、基本的なスタンスです。現地には、とてもお世話になっている方々がたくさんいらっしゃって、親日感情も強いんですね。ですから、日本とイラクの架け橋になれるような研究や活動を続けることが目標です。イラクや中東に限らず、途上国を広く見て比較2 13?イラクからの留学生アハメド・ハキさん(中央)と、コモロ連合からの留学生モハメド・シャミさん(右)は、山尾講師について「忙しい人。でも優しい先生」と語ります。 ?第2回総選挙で投票を終えたイラク人(2010年3月)。 ?第17回国際開発研究 大来賞を受賞した著書と記念トロフィー。※国際開発研究 大来賞(おおきたしょう)国際開発の分野で大きな足跡を残した元外務大臣大来佐武郎氏を記念して、国際開発の様々な課題に関する優れた指針を示す研究図書を顕彰するもの。KYUSHU UNIVERSITY Campus Magazine 2014.09 11