Academics 学部・大学院等
20世紀における生物学は、分子論的研究を導入することによって飛躍的に発展し近代化してきました。特に遺伝子組換え技術の進展とゲノム塩基配列決定法の高速化によって多量の情報が生み出され、これは、分子生物学の隆盛だけでなく、オーダーメイド医療、ゲノム創薬、生物生産の飛躍的増加を目指す分子農学など、生物学全分野においてゲノムを基礎とする新展開をもたらしました。今後の再生医療やナノ診断・治療に関しては、その応用が期待されており、これらの新分野はいずれもポストゲノム科学として情報科学と融合した総合生物情報学へと進展しつつあります。また、食品バイオテクノロジーや医用ナノテク・再生医工学などの生命工学技術を導入することにより、上述のゲノム関連研究の諸成果を先端医療テクノロジーとして実用化することが可能となります。急速な生命科学の進展に対処していくためには、生物学、情報科学、工学などの諸科学の融合が必要となり、こうした学際的で世界水準の教育研究領域として「システム生命科学」の創設が要請されていました。また、こうした生物学(医学を含む)と情報科学、あるいは生物学と工学という複数の素養を持つ学際的な人材が研究機関や産業界で求められており、このような人材を養成する大学院組織(学府)を早急に立ち上げることが急務でありました。 そのような背景のもとに、九州大学では学府・研究院制度を活かして、情報科学、工学と生命科学を融合した総合生命科学を担う教育を行う学際的学府として、平成15年に「システム生命科学府」が設置されました。広範な専門分野にわたる学際的教育を実現するために、 システム情報科学研究院、工学研究院、数理学研究院、理学研究院、農学研究院、医学研究院、生体防御医学研究所、先導物質化学研究所の教員の参画と、法学研究院の教員の協力を得て発足しました。 なお、システム生命科学という学際的・複合的で新たな領域の教育を行うために、5年一貫制博士課程とするとともに、4大講座(生命情報科学講座・生命工学講座・生命医科学講座・分子生命科学講座)から構成される「システム生命科学専攻」として、一学府・一専攻の体制としました。
教育理念・目標
20世紀の生命科学は、ワトソン・クリックのDNA二重ラセン構造の発見、DNAからRNA、タンパク質へのセントラルドグマの確立、そしてヒトゲノムの全塩基配列の決定へと進展してきました。生命科学分野から発信された知見や技術は今や医療、農業、工業等の殆どすべての生活・産業分野に目覚しい影響を及ぼしています。このような飛躍的な進展には、生物科学分野に加えて、情報科学、工学(化学、物理学を含む)分野の理論と技術の導入が大きく貢献してきました。今日、生命科学は上記の諸科学の融合によって総合生物学という全く新しいパラダイムの構築へと突入しようとしています。従って生命科学に関する諸分野が単に協調・統合するという教育研究体制では、21世紀の生命科学の世界的な潮流に全く対処し得ないことは明らかであり、「システム生命科学」の展開をめざした新たな教育研究組織によって将来を見据えた現代的諸課題に取り組まなければならない時期を迎えています。
本学府では、九州大学の学府・研究院制度の利点を活かして、医学・理学・農学・数理学・工学・システム情報科学の各研究院と生体防御医学研究所の教員が参画し、法学研究院の教員が授業担当をしており、システム生命科学の学際的教育を実践できる組織となっています。このような多様な構成により、医学、分子生命科学、工学、および情報科学の先端技術や理論を再編・融合し、新規学際分野を構築することが可能になりました。本学府では、多様な専門分野の学部卒業生や、社会人、留学生を対象にして、時代の変遷を一層促すような総合的分野を開拓しようとする意欲あふれる人を受け入れ、社会の要求に堪えうる独創性と柔軟性に富む研究者、高度な技術を持つ専門職業人としての人材を育成します。本学府の特徴は、従来の生物科学、情報科学、工学などの枠組みを取り払い、学府として一体化することによって、生物科学と情報科学、あるいは生物科学と工学というダブルメジャーの素養を持ち、かつ倫理ならびに特許取得、ベンチャー企業立ち上げなどの経済的視点に立って価値判断ができる技術者、研究者を養成するシステムを構築しました。本システムは社会から緊急に要請されているニーズに対しても応えるものであり、このようにパラダイムの転換を図るために、5年一貫制博士課程において教育を行います。なお、2年修了時には専門技術を身につけ修士学位を取得することを可能としています。したがって、入学試験は幅広い分野からの人材を受け入れるために、各分野で異なる試験科目で行います。 本学府はシステム生命科学専攻の一専攻からなり、生命情報科学、生命工学、生命医科学、分子生命科学の4大講座から構成されています。また、バイオインフォマティクス分野の新たな科目の受講希望者に対して、学際教育推進コースを設けております。本学府では、多様な分野からの出身者に戦略的学際的教育を施すために、出身分野とは異なる分野の基礎知識を修得させ、その後専門的知識の深化を図ります。特に学際領域の開拓を目指した学際開拓創成セミナーを設け、異分野間の共通認識、あるいは学際分野での問題点を認識できる教育を行います。そのため、学部教育とは異なる分野を含む複数の指導教員体制をとりますので、学際的教育研究を目指した教育を受けることができます。
教育課程の特色、内容・方法
これまで、情報科学、工学、生命科学(医科学、細胞生物学)領域でそれぞれ独立して行っていました学問的蓄積を総合して、システム生命科学という新しい学問領域を構成します。そのために、システム生命科学府にシステム生命科学専攻のみの一専攻を設置し、5年一貫制博士課程としています。このことによって、次のような教育研究効果が期待できます。
カリキュラムの特色は、下記のとおりです。
研究指導体制
本学府では、情報科学、工学、生物科学の融合を目指し、来るべき時代を担う研究者と高度専門職業人の育成を行うため、新しいコンセプトの科学である「システム生命科学」に関する体系的で専門的な研究指導を行います。この学問体系は、情報科学、工学、生物科学といった専門的教員によって担われますが、従来の専門領域や部局といった枠組みを超えて、新しいパラダイムの創造から取り組みますので、教育研究の達成目標である学位の名称は、システム生命科学を原則とします。ただし、多様な各専門分野に応じて、 理学、工学、情報科学の学位のなかからも選択することができます。
システム生命科学の新しい学問体系の構築と既存学問の研究水準の維持・発展を兼ね合わせた授与システムを確立することが必要であると考え、課程3年次以降の院生においては学部の専門教育とは異なる分野を含む複数教員3名による指導体制をとります。学生は、主指導教員の指導のもとに適宜、副指導教員の指導を受けながら論文作成を進めます。
また、国際化を一層促進するために、外国人留学生の特別選抜制度を通して留学生の積極的な受け入れを図っています。これら留学生に対しては、チューター制度により支援します。
修了要件、成績評価基準・評価方法等
専攻の教育課程を実現するために、次のような科目を配置し、修了要件を定めています。
必修基礎科目と基礎科目は主として1年次前期、専門科目は1年次と2年次、特別研究は1年次から2年間、学際開拓創成セミナーⅠとⅡはそれぞれ2年次の後期と3年次の前期に履修する。
5年以上在学し、42単位以上を修得し、かつ必要な研究指導を受けた上、博士論文の審査及び最終試験に合格することを修了要件ととします。
修了者には、博士(システム生命科学)の学位を授与することを原則とし、論文の内容によっては、博士(工学)、博士(理学)又は博士(情報科学)の学位を授与します。
なお、修士の学位は、修士課程の修了に相当する要件を満たした者に授与することができるものとします。
各授業科目の成績評価に関しては、試験やレポート、講義の発表状況や出席状況などを考慮して査定しています。
学内外で生物、化学、物理、数学を学んだ、医歯薬系学部、理農工系学部の出身者で、各分野での基礎学力を有し、システム生命科学の分野に取組む意欲を有している学生を受け入れます。 また、企業や民間の研究機関等で勤務し、学際的なシステム生命科学分野の教育研究の機会を志望する方に対しては社会人枠として受け入れます。
また、海外からの留学生に対しても、 システム生命科学分野の研究に取り組み、国際的な活動をめざす志望者を求めます。
なお、各試験における詳細事項に関しては各募集要項に記載して案内しています。