深刻化するマイクロプラスチックの海洋汚染問題に挑む

磯辺篤彦教授
英文著者 William J. Potscavage Jr.2020/07/13動画作成者 ICER

深刻化するマイクロプラスチックの海洋汚染問題に挑む

磯辺篤彦教授
英文著者 William J. Potscavage Jr.
2020/07/13
動画作成者 ICER
磯辺篤彦
磯辺篤彦
教授
応用力学研究所附属 大気海洋環境研究センター
総合理工学府 大気海洋環境システム学専攻 海洋変動力学
専門分野
海洋物理学 沿岸海洋学

磯辺篤彦
磯辺篤彦
教授
応用力学研究所附属 大気海洋環境研究センター
総合理工学府 大気海洋環境システム学専攻 海洋変動力学
専門分野
海洋物理学 沿岸海洋学
HP
DB
Pure

代の生活において、欠かせない存在となっているプラスチック。食品包装から医薬品、輸送、エネルギーに至るまで、私たちの暮らしの隅々に浸透し、生活を便利にしています。しかしながら、多くの優れた特徴を持っているにもかかわらず、プラスチックは自然界においては、深刻な影響を与える恐れがあります。

残念なことに、プラスチックが脅威となっている場所の一つが海です。ビニール袋やペットボトルといった、プラスチックごみそのものはもちろん、海洋生物はいま、5ミリメートル以下に砕けたプラスチック微細片、つまりマイクロプラスチックの脅威に直面しており、今後さらに問題が顕在化していく可能性があります。

「軽量で、流されやすく、丈夫。そんな自然界にはこれまで存在しなかった素材と、生態系はいま向き合っています」とマイクロプラスチック研究の第一線に立つ九州大学応用力学研究所の磯辺篤彦教授は話します。「便利な素材であるプラスチックの特性が、厄介な汚染物質にもなりうるのです。」

プラスチックで汚れた海岸

五島列島に漂着したプラスチックごみ。これらのごみは紫外線と温度変化によりマイクロプラスチックに分解され、海に排出されます。

現在、研究者たちの間で、マイクロプラスチックそのものの有毒性についての議論が進んでいます。その一方で、海洋生物がマイクロプラスチックを簡単に体内に摂取してしまうことで引き起こされるストレスはすでに大きな懸念となっており、やがて海産物を口にする私たちの食卓にも影響を及ぼすことになるかもしれません。さらには、マイクロプラスチックは有害物質を吸着する性質があり、海洋生態系により深刻なダメージを与える可能性が、これまでの研究で示されています。

マイクロプラスチックとの戦いでは、問題の拡大を防ぐ方法を見つけるだけでなく、海洋での浮遊量の把握と将来予測が喫緊の課題です。これらを踏まえ、磯辺教授は海洋学者としての経歴を生かし、フィールドワークと数値シミュレーションを組み合わせた手法によって、海洋のマイクロプラスチック浮遊量と漂流のモデルを作ってきました。

この取り組みを通じて、磯辺教授の研究グループは、このままの状況が続いた場合、太平洋のマイクロプラスチック浮遊量は2030年には現在と比べて2倍、2060年には4倍になると予測しました。将来予測に加え、この研究では、実際のマイクロプラスチック浮遊量が明らかとなり、科学者たちによる海洋生態系に及ぼす汚染物質の影響の解明に役立てられています。

ボートに乗った磯辺先生

調査船での調査中に海から収集されたマイクロプラスチックを取り出す磯辺教授。

このモデルの基本として必要不可欠なのが、実際の海洋にあるマイクロプラスチック量のデータです。磯辺教授は現状を把握するため、北から南へ航海しながら海洋でマイクロプラスチックを集めており、南極海でのマイクロプラスチックの報告は世界で初めてとなりました

「南極は世界で最も人が住んでいない場所にもかかわらず、その沖合でマイクロプラスチックが発見されたということは、すでに世界の海の広範囲にマイクロプラスチックの汚染が広がっていることを表しています」と磯辺教授は解説します。

驚くべきことに、磯辺教授の研究によれば、東アジア周辺の海域は、マイクロプラスチックの浮遊量が世界平均値の20倍以上となるホットスポットであることも判明しました。そのため、磯辺教授は、タイと他の東南アジア諸国と協力しながら、この問題に正面から取り組んでいます。

磯辺教授はマイクロプラスチック研究において世界をリードする研究者の一人として知られていますが、その研究を始めるきっかけは、わずか10数年前、長崎県の五島列島での出来事にさかのぼります。

磯辺教授は当時を「ビーチに大量のプラスチック片が散らばっていたことがショックでした」と振り返ります。「そこからすぐに、数値シミュレーションを使ってプラスチック片の発生源を特定するシステム開発の研究を始めました」

研究室にての磯辺先生

海洋ごみからマイクロプラスチックを選別する磯辺研究室の研究員。

日本最大のマイクロプラスチック研究プロジェクトのリーダーとして、磯辺教授は今後もマイクロプラスチックの監視と浮遊モデルのシミュレーションを続けていきます。研究を通じて科学的証拠を提供していくことで、代替素材の生産のための技術革新、プラスチック利用の削減、ごみ排出の管理体制の改善といった海洋プラスチック汚染を減らすための取り組みを促したいと考えています。

「果てしなく広い海を漂う、小さな欠片は、一見すると、ちっぽけな存在かもしれません。だからこそ、この問題を数字で示し、持続可能な開発の実現に向けた変化を起こすことが何よりも重要なのです」。

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