磁場から地球と太陽系の起源に迫る

高橋太准教授
英文著者 William J. Potscavage Jr.2020/09/11動画作成者 ICER

磁場から地球と太陽系の起源に迫る

高橋太准教授
英文著者 William J. Potscavage Jr.
2020/09/11
動画作成者 ICER
高橋太
高橋太
准教授
理学研究院地球惑星科学部門
専門分野
地球惑星内部電磁気学 月惑星探査

高橋太
高橋太
准教授
理学研究院地球惑星科学部門
専門分野
地球惑星内部電磁気学 月惑星探査
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球磁場は私たちに方角を教えてくれるだけでなく、太陽から恒常的に飛んでくる有害な高エネルギー粒子である「太陽風」から大気を守り、かつ、軌道上にある人工衛星への干渉を防いでいる重要な自然環境です。このバリアがなければ、地球上の生命は危険にさらされ、私たちの暮らしに必要な電子システムは大混乱してしまいます。

「地球磁場は見たり感じたりすることができないため、見過ごしてしまいがちですが、私たちの現代的な生活に深く関わっています」と、九州大学理学研究院の高橋太准教授は指摘します。「さらに、地球磁場は時間的に一定ではないので、その変動を予測することは、私たちの日常生活を支える上で非常に重要です」。

国際測地学地球物理学連合(IUGG)が4年に1度行う若手研究者表彰 Early Career Scientist Award を受賞した高橋准教授(2015年)。地球電磁気学における功績が評価された

高橋准教授の研究グループは、地球や他の惑星、衛星の磁場を調べることで、天体の起源と進化のメカニズムを解き明かそうとしています。磁場から得られる情報は、ナビゲーションシステムなど電子機器に関わる磁場変動の予測にとって重要なだけでなく、幅広い可能性を秘めています。

惑星や衛星の中心部から発生する磁場は、その内部構造や天体の生い立ちについての重要な情報を持っています。高橋准教授は理論に基づくシミュレーションと観測による実証に基づいて、太陽系全体に渡る謎に迫ろうとしているのです。

例えば地球の場合、地球磁場は地下約2,900 km、地球中心部にある厚さ約2,200 kmの層「外核」に由来し、高温で液体状となった鉄の対流による発電作用(ダイナモ)によって生成されています。高橋准教授の初期の研究成果として、2005年、当時世界最高の解像度で地球のダイナモの数値シミュレーションを発表しました。

以来、高橋准教授は地球のダイナモへの理解をさらに深めると共に、太陽系をより理解するための新たな知見を得るために、他の惑星や衛星の研究を進めています。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の月探査機「かぐや」とアメリカ航空宇宙局(NASA)の「ルナ・プロスペクター」による月磁気異常の観測データの解析から、月には過去に磁場を生成するダイナモが存在していた証拠を示しました。さらに、月の自転軸の向きが現在とは異なっていたことを発見しました。

水星内部の磁力線を表したシミュレーション結果

「これは、月の歴史のどこかのタイミングで、月の自転軸に劇的な変化があったことを示しており、月の起源と進化を探る上で、新たな見解をもたらします」と高橋准教授は説明します。

最近では、地球磁場と大きく異なる水星磁場の発生メカニズムを明らかにしました。高橋准教授は、メッセンジャー探査機が観測した水星の特異な磁場構造を、中心核内部の熱化学的状態を考慮することで再現しました。この研究成果は、水星についての理解を深めただけでなく、人工衛星のデータが、惑星の秘密を解き明かしダイナモ理論を発展させる上で、いかに重要かを示しています。

人工衛星によるデータ収集において、高橋准教授は、かぐやの月探査ミッションに磁力計の開発・較正担当として参加した経験を持っています。月の磁場を正確に測るためには、他の機器からの干渉を避けなければなりません。JAXA、部品メーカー、多くの研究者たちと協力して、各部品レベルで徹底的に開発やテストを重ね、衛星全体の設計と、磁場観測に最適な設計の両立を図りました。

かぐやとルナ・プロスペクターの観測データから作成した月面の磁気異常地図。左が地球から見える側の月、右が月の裏側

「衛星探査ミッションは、多様なバックグラウンドを持つ、たくさんの人たちとの共同作業の上に成り立っているということを、忘れてはいけません。このプロジェクトを通じて多くの機会と時運に恵まれるなどして、研究が軌道に乗り、今日の私に繋がっていると思います」と、振り返る高橋准教授。

高橋准教授の研究グループは、磁場を通じて太陽系についてさらに探求すると共に、私たちの住む地球がいかにユニークで特別な惑星であるかを知るべく、研究を進めていきたいと考えています。

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