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街に秩序と個性をデザインする —パブリックデザイン実践的研究—

芸術工学研究院 研究紹介

街に秩序と個性をデザインする —パブリックデザイン実践的研究—

芸術工学研究院デザインストラテジー部門
兼 未来デザイン学センター(センター長)
教授 森田 昌嗣

 実践的パブリックデザイン研究は,感性価値形成のための関係のデザイン「人,ものこと,の魅力的で最適な関係をデザインする実践的方法」の一つである。私たちの生活を支える街の街路,公園,施設などの公的空間(パブリックスペース)は,利用者にとって魅力的なさまざまな要素が用意されることによって快適な場を提供している。快適な場をかたちづくるためには,パブリックスペースの多様な要素の秩序化と個性化の方法を検討する必要がある。秩序化のためには,例えば街路に無秩序に設置された諸要素を整理することからはじめなければならない。個性化のためには,例えば街路の環境特性にあった性格づけを行い,その性格づけから必要とされる要素を選び出し,要素相互の協調したまとまりのある魅力を導き出すことが求められる。要素の一つひとつがいかに優れたデザインであっても,要素相互の調和がとれていない場合は,ちぐはぐな街のデザインとなる。そして重要なことは,個性化のためには,秩序化が欠かせない前提条件となり整理された環境の中ではじめて個性的で魅力的な場をかたちづくることができる。つまりパブリックデザインは,機能的マイナスの「秩序化」デザインと感性的魅力の「個性化」デザインの関係のデザインといえる。

 

 

 

 

 

筆者近影

■パブリックデザイン方法

「秩序化」と「個性化」のデザインには、さらにデザインすべき対象の歴史的・文化的背景などの特性を把握し、その対象の価値形成における“主役”と“脇役”の配役を決定することが重要である。パブリックデザインは、「もの・ば」の空間価値と「こと」の情報価値そして「時間」価値の三つの関係を結びつけるベクトルの方向を見極め、可視化することにある。つまり、主役をつとめる「個性化」のベクトルと脇役を担う「秩序化」のベクトルの方向を決定づけ、空間・情報・時間価値形成の関係をどのように構築するかが、パブリックデザイン方法となる。

■パブリックデザイン実践事例

いずれのプロジェクトにおいても,利用空間確保のための機能面での秩序化と福岡の地域性・場所性を反映させる感性面での個性化の方法を適用して,秩序化と個性化の双方のバランスで計画し,グッドデザイン賞などを受賞した。

1. 銀座・晴海通り(東京都中央区)
Harumi Street Design Project, Ginza, Tokyo, Japan : 1989
<都市景観大賞・Japan Urban Design Award 1993>

2. 西新宿地区サインリング(東京都新宿区)
Sign Ling of West Shinjyuku District, Tokyo, Japan : 1991   
<第25回日本サインデザイン大賞・通産大臣賞・ 25th Japan Sign Design Award, Grand Prize ・ Minister of International Trade and Industry Award 1991>

このプロジェクトは、交差点の個性的なサインサークルに信号機、照明、標識などを集約した、おそらく世界で最初の事例となった。

最近、このサインリングが、映画「君の名は。(2016-2017)」のシーンで取り上げられたことで話題となった。

3. 西中島橋(福岡市中央区)
Nishi-Nakashima Bridge, Fukuoka, Japan : 2003
<2003年度グッドデザイン賞・Good Design Award of Japan, 2003>

4. 博多駅博多口駅前広場(福岡市博多区)
JR Hakata Station Front Plaza, Japan : 2011
<2011年度グッドデザイン賞・Good Design Award 2011>

本プロジェクトは、2010年3月「博多駅前広場等再整備検討会」において住民をはじめ行政、関係事業者、筆者を含む専門家などの協議により広場等計画の基本コンセプトが策定された。「賑わい・交流の場」「福岡・博多の魅力を象徴する景観」「快適で利便性の高い交通結節空間」の形成を骨子に、無駄な人工物の設置を抑え心地よい移動と滞留を促すような広場全体の調和と魅力の創出がデザイン方針となった。そして翌年度(2010年度)、筆者らは福岡市の要請により実施デザインを担当した。調和と魅力の駅前広場をかたちづくるために、広場を構成する多様な要素の関係のデザイン“ 秩序化と個性化によるパブリックデザイン” 方法を適用した。駅前広場では、地下の出入口やバス停、サイン、照明などの施設・装置類に駅ビルや周辺景観に調和するシンプルでわかりやすい秩序化のデザインを、広場の舗装、植栽、ベンチなど屋外生活の舞台となる要素類に、博多・福岡を表現する個性化のデザインを施した。秩序化は、引き算のデザインである。例えば、高さ12mの道路照明は、信号、標識などを共架集約し4 本の角パイプ構成によって柱の存在感を軽減している。また角パイプをダークとライトのグレートーンに色分けすることで駅ビルのファサードに同調する秩序化のデザインとした。広場全体を印象づける舗装が主な個性化の対象となる。双子都市といわれる博多と福岡の結びつきを、南北と東西の帯柄が織りなすリズムに表現した。帯柄のリズムは、博多の拠点・博多駅コンコースから福岡・天神地区への通りに導くように、広場中央に向けてグラデーションを集中させている。個性化は、地域特性などから抽出した価値を人と要素と場の相互が協調した魅力のデザインに結びつけることであり、秩序化により整理された環境の中ではじめて形成されるデザインである。

※ファサード:フランス語で建築物の正面のことをいい(façade)、人間にたとえると「顔」にあたる。建築物においても、デザイン面で重要な役割をもっている部分である。また、都市の景観形成上も重要な構成要素のひとつであり、周辺の環境などを十分に配慮しつつ、調和のとれたファサードを形づくることも大切となる。

■お問い合わせ先
芸術工学研究院 デザインストラテジー部門 教授 森田 昌嗣