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芸術工学研究院 研究紹介

錯視による視覚のメカニズムの探求 ~視覚は脳活動そのものを見る装置~

芸術工学研究院 兼 応用知覚科学研究センター 教授 伊藤裕之

■錯視による視覚メカニズムの探求プロジェクト

 この研究プロジェクトは、本教員のライフワークです。実験心理学をベースにしながら、錯視をはじめとする視覚の特性を調べ、それが脳における視覚のメカニズムとどう関わっているかを研究しています。ここでは、2つの例を紹介します。

■残像に現れる視覚メカニズム

 見つめ続けた色と反対の色が見える補色残像はよく知られていますが、残像において形が変化することはあまり認識されていません。図1は、2012年にPsychological Science誌に発表した現象で、周辺視野で円を見つめ続けると残像として6角形等の多角形が見え、逆に6角形を見つめ続けた後は、円形の残像が見えます。この現象は、形の知覚において、曲線と角の検出が互いに拮抗していることを示すものと考えられます。実際に自分の目で確かめたい方は、以下のパワーポイントファイルをダウンロードしてスライドショーを実行してみてください。
(http://www.design.kyushu-u.ac.jp/~ito/shape-afterimage.pptx)

図1.残像における円と多角形の相互変換(Ito, 2012)

■止まっているものが動き、動いているものが止まって見える錯視

 動いて見えるものは、必ずしも物理的に動いているわけではありません。図2は2013年にi-Perception誌に発表した現象で、左図のように、放射線状のパタンの中央に置かれた円盤が、目の動きと共に動く錯視です。右図のように、紙に印刷したものを、中央を凝視しながら両手でハンドルを切るように左右にゆっくり回すと、その回転と反対方向に円盤が動いて空間内の同じ位置にとどまろうとするように見えます。これらの現象は、視対象と背景が同じ輝度であるとき、その相対的な動きを検出する機能が誤動作を起こしているものと考えられますが、まだ完全には説明しきれていません。これも、実際に自分の目で確かめたい方は、以下のパワーポイントファイルをダウンロードしてスライドショーを実行してみてください。
(http://www.design.kyushu-u.ac.jp/~ito/pursuit-illusion.pptx)

図2.動く錯視と止まる錯視(Ito, 2013; Bai & Ito, 2014)

■錯視を研究する意義

 映画「マトリックス」において主人公は、「自分が生きている世界はコンピュータによって作られた仮想現実である」ことを知り、現実の世界に覚醒します。視覚の研究者の世界観はこれと似ています。私たちが見ている世界は脳で作られた“仮想現実”です。目から脳へ送られるのは外界の映像ではなく、シリアルな神経インパルスの集合です。「色」や「明るさ」さえ脳でその神経活動の情報を「可視化」したものです。リアルタイムに世界を映像化する脳の性能はコンピュータの比ではありません。そして、脳による仮想現実の矛盾をつき、現実に目覚めさせる役割をもっているのが錯視です。
 私たちが見ている世界は脳の活動の現れであり、錯視はその活動の特徴を端的に表しています。したがって、錯視を研究することで、脳の活動・メカニズムを研究することにつながります。また、応用面では、錯視を避ける方法を見出すこと、あるいは逆に錯視を利用することで、事故防止や視覚デザインに役立てることができます。錯視はエンターテインメントとも相性がよく、CMやゲーム、映画等の映像などに取り入れることができます。ここで紹介した錯視は、2015年の愛媛県総合科学博物館「大トリックアート展」等に展示され、子ども向けのサイエンスコミュニケーションにも役立っています。

■連絡先等
伊藤裕之(芸術工学研究院)
email: itoアットマーク挿入design.kyushu-u.ac.jp
URL: http://www.design.kyushu-u.ac.jp/~ito/

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