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平成16年度 九州大学入学式告辞(2004年4月7日)

 国立大学法人九州大学に合格され、めでたく「変革し飛躍する九州大学」の一員となられた皆さんを、心より歓迎いたします。入学おめでとう。

 また、大韓民国ソウル大学校Un-Chan CHUNG(チョン、ウンチャン)総長におかれましては、大学運営の御多用中にもかかわらず、入学式に御出席賜り、祝辞を頂戴できますことを、九州大学を代表いたしまして厚く御礼申し上げます。

 入学試験という過酷な競争を突破され、満足感と達成感をもって本日、入学式に出席しておられるのは、皆さん自身の努力によるものであるのは間違いありませんが、皆さんの今日の晴れの姿は、周りの多くの方々からの、これまでの経済面、精神面、あるいは教育面の、計り知れない支援によるものであることを忘れてはなりません。

 まず、皆さんが入学された九州大学の歴史と現状を説明しましょう。九州大学は、1903年に京都帝国大学福岡医科大学として設立されていた医科大学と、1911年に設立された工科大学とを合併し、九州帝国大学として誕生しました。東京、京都、東北帝国大学に次ぐ第4番目の帝国大学で、今年で93年の歴史と伝統を誇る、我が国の高等教育の基幹をなす大学であるとともに、研究面でもこれまで数々の世界的業績を挙げてきました。昨年10月に九州芸術工科大学と統合し、現在、九州大学は、学部学生約11000名、大学院学生約6100名、教職員約4400名が所属する、巨大な知的集団であり、優れた人材教育と、卓越した基礎および応用研究を世界に発信する、我が国有数の中核的教育・研究拠点大学の1つであることはご存知の通りです。

 九州大学は、自ら定めた改革の理念を効果的に実現し、また、基礎教育を確実に身に付けさせ、創造力を養う教育・研究の中核的拠点を実現するために、平成17年度より、福岡市西区元岡・桑原地区の新キャンパスへの移転を開始します。新キャンパスは、福岡ドーム約40個分の広さに相当する275ヘクタールと広大で、環境の保護、埋蔵文化財の保存に細心の注意を払い、今後100年以上の教育・研究のための新理想空間の実現に向け努力しています。新キャンパスには、学生の皆さんにとって、キャンパス生活が楽しく勉学せずにはいられないという環境を作るために、多くの仕掛を創るつもりです。

 次に、国立大学の法人化についてお話します。

 1911年の創立以来続いてきた国立大学九州大学は、4月1日以降、国立大学法人九州大学に名称が変わっております。法人化により大学の運営・経営法、財務・会計制度、人事制度等が変わり、大学活動の根幹である教育、研究、社会貢献、国際貢献にも各大学の個性輝く特色・特徴を出すことが要請されています。九州大学でも、これら法人化の基本理念を具体化することにより、世界レベルの教育研究の中核的拠点を構築することが求められています。九州大学の活動の重点四分野(教育、研究、社会貢献、国際貢献)で他大学と比較して特色のある活動をして顕著な成果を出し、大学の活動、成果を社会に対して分り易く目に見える形で情報発信することが、社会的責務となっております。

 皆さんが九州大学に入学した目的は何であるか、今ここで真剣に考えて下さい。遊び、のんびり過ごすためや就職準備の目的で九州大学に入学したのではありません。皆さんは、九州大学の教育と研究に耐えられる基礎学力と体力を身に付け、また社会人として常識ある行動のとれる学生として、九州大学に合格したわけです。低学年教育、共通教育で教えられる科目を理解し、高学年専門教育の基礎として身に付けられるかどうかは、皆さん個人個人の勉学に対する真摯な取り組み方によります。勉強は皆さんが自覚して自ら行うもので、他人から強制されてするものではありません。いくら良い教育を受けても、それを理解し、個性ある考え方として展開し、独創性・創造性を身に付ける努力をしなければ、大学教育を受ける意味はありません。ここで、「やる気のない学生は九州大学にはいらない」と「人並みの努力は人並みに終る」ということを言っておきます。また、人文科学、社会科学、自然科学の教育を通じて、基礎知識を身に付けることは勿論ですが、人間としての尊厳を守るための倫理観も身に付けて下さい。

 これから始まる九州大学での生活で、高等学校までの学生生活と大きく異なる点の1つに「国際性」があります。九州大学には約1200名の外国人留学生がいます。また、社会生活に於いても、リアルタイムで世界各地から様々な情報を得ることができるようになっています。真の国際性とは、外国語が喋れるということとは違います。異なった国や民族の風俗習慣、宗教、歴史、政治、経済などを理解し、これらに対して自分の意見を述べたり、その国の人たちと議論ができることです。最近、東アジア地域では、国民の経済が豊かになるにつれて、外国の厳しい環境の下で勉強することを、若者が積極的に望まなくなりつつあるということを聞いたことがあります。最近の日本人の若い人達は、旅行など短期間外国に滞在し楽しむことは望むが、外国で苦しい勉学を何年も続けることを、必ずしも望まなくなったように私も感じています。東アジアの国々の経済的に豊かな生活が、若者達に苦労して人生の夢を実現させるより、楽をして得られる目先の安易な道を選ばせているのかもしれません。政治、経済、スポーツ、芸能あるいは日常生活までもが国境を越え、ボーダーレスの状況になりつつあります。このような時こそ、外国語が喋れ、その国の人達の習慣、考え方、感情が理解でき、その国の人達と討論でき、最後には激論を通じて、本当に相手を理解できる能力を持つ社会人となる必要があります。

 地球上には、様々な国あるいは地域に、多種多様な生活習慣、社会通念あるいは政治・経済体制、文化、宗教があることを知り、私達と異なった民族観や宗教観を持つ集団が存在していることを知ることが、「国際性」の基本です。自分自身の意見と異なる優れた考え方を持つ個人あるいは集団が居ることを知って、初めて他人あるいは他民族を尊敬することができます。地球上に存在する民族、宗教、文化、政治・経済体制など、様々な面で自分達と異なるものがあることを理解し許容することができれば、20世紀に起こった多くの戦争や現在起こっている民族あるいは国家間の争いを、防ぐことができたかもしれません。先程述べました様に幸いにも、九州大学の学生になられた皆さんの回りには、世界中から集まってきた1200名に近い数の留学生がいます。外国からの留学生と積極的に交流し、意見を交換し、多くの国際的友人を作って、地球上には、単純に統一したり、規格化したり、枠に嵌め込んだりできない価値観、人間観、宗教観のあることを理解して下さい。

 最近の日本の若い人達の考え方、行動で気になっていることをお話します。財団法人 日本青少年研究所が「高校生の生活と意識に関する調査─日本・韓国・アメリカ・中国の四ヵ国比較」を実施し、2004年2月に発表しています。調査内容は、学校生活、男子生徒と女子生徒の意識と行動、友人関係、生活意識など、高校生の自己認識比較と多岐に亘っています。4ヵ国比較で日本の高校生が他の3ヵ国と特に異なっている点について解説してみます。「学校で最も充実している時は」との質問に対して、日本では『親しい友人と一緒にいる時』であり、他の3ヵ国は『よい成績を取った時』となり、日本の生徒の勉学に対する関心の低さが目立っています。「クラスの中の男子生徒と女子生徒の行動」では、男のイメージとして『乱暴』や『頼りになる』は共通ですが、日本では『元気』と答えた者が僅か25.3%で他の3ヵ国とは大きな違いがあります。また「規範意識」として、日本の高校生は、『先生に反抗する』、『親に反抗する』、『学校をずる休みする』や『過激なファッションをする』という行動には他の国と比べて、かなり寛容であるという傾向が浮かび上がってきます。特に「生活意識」に関しては、他の3ヵ国と比べて、『偉くなりたい』、『将来自分の会社を作りたい』、『クラスのリーダーになりたい』、『目立ちたい』と肯定する日本人高校生が、かなり少ないという結果となっています。調査の結果をまとめますと、高等学校で人生の目標を持って一生懸命勉強し、将来、責任感や独立心を持った社会のリーダーになりたいと望みを持っている若者の数が、他の3ヵ国と比較して極端に少ない日本の実状が浮かび上がってきます。日本経済の不況や世界で起こっている政治、経済、軍事的争いを考えると将来の夢や希望は持てない、という言い訳をするのは容易ですが、自分が消極的である理由を他人や社会に押し付けても仕方のない事です。新聞記事、テレビのニュースを見ると、何事においても他人や社会の責任にするという悪い風潮が、日本に蔓延しているのではないかと心配になってきます。

 大学は、自分の将来の夢や目標を自分自身で設定し、それを実現する場なのです。的確な人生の目標・目的なくして夢の実現はありません。夢や目標の実現を願うことが、自然と実現へ向けての行動を起こさせ、勉学、社会生活、友人関係などあらゆる面で積極性を発揮させるのです。九州大学では、ただ待っているだけでは何も得ることはできません。自分自身で考え行動する貪欲な学生が、専門性、社会性、国際性、人間性を身に付けることができる仕掛を授業、研究、ゼミナール、クラブ活動など、様々な場に作っていますし、そのような学生を、教職員は喜んで支援します。世界人権宣言の起草に情熱を注いだエレノア・ルーズベルトは『未来は美しい夢を信ずる人達のもの』と言っています。

 皆さんがこれから九州大学で受ける教育は、受け身でかつ他人から強制される勉強であってはなりません。学問に対する欲求と、研究から新しい真実を見つけ出す喜びは同じであり、勉強も研究も新しいことを知る喜びであるのです。しかし、今から六本松地区を中心に受ける低学年共通教育や基礎教育、そしてその後に受ける学部専門教育、大学院教育及び研究には、新しい知識の蓄積、新事実の発見、さらに自分の考えを展開できるという期待と感動がありますが、決して易しく、楽しいことばかりではありません。学問、研究は、専門的になり深く追究すればする程苦しさが増してきます。

 産業界から見た日本の大学生に対する評価として、いくつかの問題点あるいは課題を経済団体連合会がまとめています。産業界から指摘された日本の大学生に対する問題点を列挙しますと、①実社会との関わりが少ない、②探究心に欠け、深い掘り下げが不充分、③自らの目標設定がなかなかできない、④壁にぶつかったとき突破する気力、粘りが不充分、⑤すぐに防御線を張り、多少でも無理がある場合は飛び込まない、⑥受け答えがデジタル型返答が多く、返答の内容はリスク回避型が多い、とあります。これらの実業界からの要望にできるだけ応えるためにも、皆さんは学部教育を受ける間にこれらの指摘を真剣に考え、自己研鑽をして欲しいと思います。

 抵抗なく何事にも飛び込んで行き、失敗が許されるのは若い時しかありません。新入生の皆さんは、若者の特権を持てる若い日があっという間に過ぎることを自覚して、1日1日を有効に、九州大学の学生生活が実り多く、有意義となるよう心掛けて下さい。「変革し飛躍する九州大学」の学生という誇りをもち、何事にも自分の意見を持ち、積極的、建設的な行動の取れる社会人としても成長することを願って、告辞と致します。

「自律的に行動できる若者に」
平成16年4月7日
九州大学総長 梶山 千里

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