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九州大学の国際戦略・アジア重視戦略について(2004年8月1日)

はじめに

 2004年4月からの国立大学法人としての新生「九州大学」のスタートにあたり、将来を展望した本学の国際戦略、とりわけ、アジア重視戦略について、本学教職員・学生への理解を深めるために、本文を提示するものであります。

国際戦略の定義

 先ず、ここで、本学が考える「国際戦略」の意味を定義づけする必要があります。本来、大学は、人類や他の生物あるいは地球環境に貢献する知的活動の場であります。グローバリゼイションの時代にあって、ひとり日本の大学だけが、この流れに抗うことは不可能でしょうし、世界中の研究者が共同で展開する研究活動の重要性は、今後の大学と社会との関わりの中で、ますます強調されていくものと思われます。

 本学の主体性の確保と同時に、多くの研究者との協力関係の維持という観点から自ずから浮かび上がってくる考えを基にして想定される関係として定義するとすれば、「国際戦略」とは、「世界的規模での競争的協力関係の構築」という表現が最も適当であり、本学で展開される諸々の活動は、これをベースとしていることをご理解ください。

 現在、本学が締結している学術交流協定は、大学間で40校(アジア 23、欧州 11、北米 4、中米 1、オセアニア 1)、部局間で112校であり、学生交流協定は、大学間で58校(アジア 24、欧州 19、北米 14、オセアニア 1)、部局間で33校(アジア 14、欧州 12、北米 4、オセアニア 3)となっております。また、特別なコンソーシアム方式での学生交流が、大学院レベルでの交流プログラム「コレージュドクトラル」として、日本側29校とフランス側53校との連携により実施されております。このように、全国の主だった大学に比して、その数においても、締結校の学術的なレベル面でも、本学はトップクラスに位置しております。

 協定締結校は、歴史的に欧州との関係が深いアフリカ圏や南米圏を除けば、地球規模に展開されており、今後、国際貢献や国際協力の観点から、アフリカや南米の大学との連携も視野に入れた活動を活発化させることも重要であると認識しております。

 このような協定締結の効果として、多くの特筆すべき活動が展開されていますが、個別の研究者の交流を基礎として実施されることが多い学生交流プログラムの多彩さや、内容の充実度は、後述するJTWやATW、ASEP等、他大学の追随を許さない実績を挙げております。

 研究者交流においても、ノーベル賞受賞者との共同研究の実施(ノーベル化学賞受賞のルイ・パスツール大学のレーン教授)や国際的な包括連携の推進(上海交通大学)、「玄海プロジェクト」に代表されるITによる相互交流的研究活動の展開など、その活動の幅は大きく、本学の研究水準が世界基準に照らして、相当高い評価を得ている証左であると言えます。その意味で、「競争的協力関係」を世界の大学・研究機関との間で構築するという基本的な立場を、今後とも強化していくことを、本学教職員・学生のみなさんに、ぜひ再確認させていただきたいと思います。

アジアに開かれた九州大学

 さて、本学は、開学当初から「アジアに開かれた大学」を標榜し、多くの優秀なアジアからの留学生を受け入れてまいりました。留学生たちは帰国後、母国の発展のために活躍し、多数の本学での留学経験者が、各界の指導的な立場で活躍しております。またアジアの研究者との交流も活発に展開してまいりました。

グローバリゼイションの時代と三極関係

 最近、本学は、従来の国際交流戦略を、現在のグローバリゼイションの時代に適応させるべく、新たな国際交流戦略を策定し、これに伴い、国際交流組織も再編いたしました。グローバリゼイションの時代の大きな核となる考えのひとつに、米国・欧州・アジアという三極の相関関係の位置づけというものがあると考えています。

 すなわち、グローバリゼイションがアメリカ化を意味するとして、その対極としての欧州の反発があり、その認識は、恐らくアジア諸国も共有していると理解しているのです。 【中国のプレゼンスとアジア戦略】

 一方では、日本経済の低迷を受けて、欧米が指向したアジアの国が中国であったことは、明らかに、欧米諸国にとって、アジアが巨大なマーケットとして魅力的な地域であることの証左であり、アジアが欧米という二極に対して、市場経済の論理で結びつく、あるいは関係する存在でしかあり得ないとの印象をアジア諸国に与えているという点で、アジアに所在する日本の大学として、グローバリゼイションの時代に向け、新たな戦略を策定することは自明の理でありました。すなわち、三極構造下でのアジアの役割が必ずしも、欧米の二極と対等ではないという、我々にとっては、あまり喜ばしくない印象を持たざるを得なくなるからです。

アジアの欧米指向

 九州大学は、過去のアジアの人的流動性を検証し、アジアと欧米との三極構造下での国際交流戦略を展開することにしています。

 実際、多くのアジアの優秀な学生や研究者が欧米へ流れ、中には、母国へ帰国せずに研究活動を欧米で行わざるを得ない人材もいました。確かに、圧倒的に欧米の優秀な研究者がリードしていた、あるいはリードしている研究分野もありますが、分野によっては、アジアの研究者が先端的な研究を展開しているものも多くあります。また、アジアの地域研究に関しては、方法論も含め、アジアの研究者の実力は相当高いレベルにあります。しかしながら、一般社会には、このような情報の提供が少なく、広報活動の充実が急がれると痛感しています。

 アジアの研究者の欧米指向の理由は、いくつか挙げることができます。まず、アジアの大学等の研究環境の貧弱さです。次に、国際学会や論文発表に際し、最近は英語が主流となっている状況に対応するために、とりわけ英語による表現力あるいは理解力の不足を補うための留学希望、などです。

アジア重視戦略

 九州大学は、このような状況に鑑み、アジアの人材がアジアで研究活動を展開し得る環境を整え、研究活動で欧米に比肩し得る実績を上げることを意図して、「アジア重視戦略」を国際戦略の大きな柱に据えることにしたのです。

アジア学長会議

 まず取り組んだことは、アジアの有力大学との連携構想です。この構想実現のために、2000年12月に、九州大学の提唱により「アジア学長会議」を開催し、北京大学やソウル大学校等の学長クラスの参加を得て、21世紀におけるアジアの大学の役割について議論いたしました。この会議を毎年開催することについても了承を得て、2001年10月には「第2回アジア学長会議」、2002年には韓国の釜山大学校の主催で「第3回アジア学長会議」、2003年にはタイのチュラロンコン大学、タマサート大学、マヒドン大学の共催で「第4回アジア学長会議」を開催いたしました。この間参加大学は各国の有力大学20校以上にまで増加し、名実ともにアジアの大学間の連携を強めております。2004年11月には、本学主催で第5回目の会合を持ちます。

 これらの一連のアジア学長会議において、特に重視していることは、まず、各大学の学長クラスが相互に信頼関係を醸成することにより、個別の共同研究や学生交流の円滑な実施に寄与することが挙げられます。また、後述するように多様な交流計画が実際に運用され始めていることも、学長会議継続の成果であると言えます。

ネットワーク・ポイント

 アジア学長会議において、本学は連携強化のための「ネットワーク・ポイント」の設置を提案し、承認されました。これは、相互の大学が、研究・教育分野で協力しあうための拠点を設け、一層の交流を促進するための仕掛けであります。現在、設置のための覚書締結手続き中の大学も含め、20校程度が参加予定です。

 このネットワーク・ポイント構想の合意に伴い、活動拠点として、「ブランチ・オフィス」を設置し、研究者間の共同研究の推進や情報交換、学生のリクルート、大学紹介等の活動が容易となり、より緊密な連携へと進むことになります。合意後の最初のブランチ・オフィスが、ベトナムのハノイ農業大学に設置され、本学教員が共同研究の拠点として活用しました。本学も、国際交流部・国際交流推進室の建物の2階に、ブランチ・オフィスを設置して受入れの体制を整備いたしました。現在、ソウル大学校、上海交通大学やチュラロンコン大学等との間で、設置に向けた協議を行っております。

ASEP

 ネットワーク・ポイントと連動する形で、Asian Student Exchange Program(ASEP)という学生交流プログラムを展開しています。これは、相互の学生交流のみならず、共通カリキュラムや共同サマープログラムの開発などを通して、研究者間の交流活性化も意図したプログラムです。

 特に、共同でカリキュラムを開発することで、学生の質的レベルを共通化させ、アジアの学生の全体的なレベルアップを図ることができると期待しています。正しく、教育の質保証を、本学は、すでに日本国内で声高に議論される前から、具体的なプログラムとして発展させていくことを検討していたわけです。

若手研究者養成プログラム

 また、アジアの研究者の質的向上については、若手研究者の育成のためのプログラムを展開するための準備を進めています。九州大学が誇る世界的なレベルでの研究分野を中心にしたプログラムを開発し、本学においてアジア各国の優秀な若手研究者を受け入れ、研究者としての能力を高めることで、帰国後の母校での指導に活かすという構想です。

欧米の大学との関係

 一方、欧米の大学との関係については、アジアに軸足を置いた国際戦略として、欧米の研究者との競争的協力関係を通じて研究能力や業績を競う方針も、当然有しております。

大学サミット

 例えば、2000年に国際シンポジウム「大学サミット・イン・九州」を開催いたしました。米国・欧州・アジアの大学の内、本学と交流協定を締結している大学から8大学をリストアップし、大学の現状と将来について議論いたしました。個別の大学が個別に模索している課題を協議しましたが、多くの課題が共通の問題を有していることが明らかとなり、対応についての活発な討議が展開されました。本学としてもアジアの大学として、国際的な知の拠点形成へ向けた刺激ともなり、欧米の大学へ、アジアからの提言を行うことの重要性を確認いたしました。第2回目の大学サミットを開催する計画も進んでおり、より充実した議論を期待しております。

ATW開講

 本学が、アジアに焦点を絞ったサマーコースとして2003年から開講したAsia in Today's World Program(ATW)を、欧米の学生たちにも広く提供している理由も、アジア理解促進を欧米の若い学生たちに期待してのことであります。もちろん、1994年から開講しているJapan in Today's World Program(JTW)と対をなすプログラムとして今後、多くの改良を重ねていき、日本の国立大学では初めてのアジアに特化したプログラムとして発展させていく予定です。

九州大学海外オフィス

 相互設置を前提としたブランチ・オフィスとは別に、本学独自の拠点として、情報の受発信の機能を担うことや本学の国際戦略についての助言・提案をいただくことを任務とする、九州大学海外オフィスを2004年4月に、ロンドン(所長:山田 直氏、文部科学省科学技術政策研究所国際客員研究官)、カリフォルニア(シリコンバレー、所長:松尾 正人氏、日本ゼオン株式会社顧問)、ミュンヘン(所長:辻 ミュンヘン大学名誉評議員・東京大学名誉教授)、それにソウル(所長:朴 寛善氏、SY hitech常務理事)の4カ所に設置しました。すでに、各オフィスからは、当該国の学術情報や産学連携情報等が寄せられております。ソウルオフィスの朴所長には、韓国九州大学同窓会の活性化など、具体的な活動にも従事していただいております。この海外オフィスは、いずれ、北京・上海・バンコクなどにも設置することを計画しています。

国際戦略の二つの要素

 九州大学の国際戦略とは、換言すれば、アジアの大学との連携強化を通したアジアのステイタスの向上と、アジアから発信する欧米の大学との競争的協力関係の構築という二つの要素から成り立っていると言えるでしょう。

国際交流推進機構

 このふたつの要素を繋ぐ仕組みとしての組織の立ち上げが急務となり、2002年4月に、国際交流推進機構を発足させました。

 この機構は、アジア総合研究センター、韓国研究センター、留学生センター及び国際交流推進室で構成されています。アジア重視の観点から、アジア総合研究センターと韓国研究センターが機能し、留学生センターが、欧米やアジア等の学生のアジア理解を促進するための活動を行っています。

 文字通り「韓国研究センター」は、朝鮮半島から中国北東部までの韓国・朝鮮文化圏の研究に特化した活動を行っており、韓国国際交流財団からの寄附金の提供や韓国政府による日本における韓国研究機関としての認知等に表れているように、韓国側からも高い評価を得ております。特に、同センターが実施した、本学へ留学した韓国人学生の追跡調査(第一次)により、本学の卒業生の多数が、韓国内の、多くの分野で指導的な立場で活躍していることが、実態として明らかにされました。

 「アジア総合研究センター」は、アジア研究者やアジアの研究者との共同研究を実施している研究者の情報提供や、学術図書(KUARO叢書)の発刊等の活動と並行して、社会に開かれた大学として、学内外に「分かりやすいアジアの紹介」を行う「アジア理解プロジェクト」を発足させ、インド大使やフィリピンの映像作家等の講演会を実施し、身近にアジアを体感することでアジア理解を深める活動を展開しています。また、メール・マガジンを通して、一般の市民の方々に、アジア関連のイベント等の紹介も行っています。

 また、アジア重視戦略を一層強化するため、「アジア現代文化センター(仮称)」を立ち上げるための検討を進めています。将来のアジアを担う若者たちを魅了する「サブ・カルチャー」を研究するとともに、「言語」や「宗教」も含めた三本の柱により、政策提案型の機能も併せ持つ画期的な組織として、活動することを期待しています。
これに伴い、国際交流推進機構の組織を再編することを計画しています。地域研究、総合研究、コーディネーション、政策提案等を、より機能的かつ効率的に展開するための組織再編です。

 すでに、本学の国際戦略を総合的に議論するため、総長の諮問機関として「国際交流総合企画会議」を、本機構内に設置しました。学外委員も構成員となっており、ここでの提案を、国際交流推進室が、企画・実施に向けて、機構内での調整を行います。

おわりに

 歴史を遡って考えれば、古代ローマもモンゴル帝国も、その支配する領土の壮大さにもかかわらず、地球規模での価値観の統一まで至ることはありませんでした。支配する地域の文化を意識的に認めるという統治方針があったとしても、やはり、国の統治と地域の独自の価値観が統合することの難しさを、歴史は教えてくれています。

 しかしながら、今日の国際社会は、グローバリゼイションの名の下で、価値の一元化の様相を呈しております。端的に言えば、インターネットの爆発的な普及により、正しく国境なき情報戦略が展開されつつあり、その主導的立場に欧米という二極が君臨しています。歴史上、このような状況は、初めての経験であります。

 21世紀型の新しい歴史が創造されていると言っても過言ではないでしょう。

 それでは、アジアは、どのような道を歩めばいいのか、欧米二極の後塵を拝しながら、自分たちの価値観を欧米に合わせて進むのか、本学のアジア重視戦略は、アジアの活性化とアジアという極の強化にあり、その具体的な活動を通して、本学のプレゼンスをアジアにおいて確立することにあります。それが、結果として、欧米二極に対峙するアジアの大学としての責務ではないでしょうか。

 欧米にはないアジア固有の社会、文化、歴史や、その多様性を踏まえながら、アジアから発信する世界基準を超えた研究成果、教育プログラム等、本学が提供し得る人的・物的資源を積極的に活用して、世界に向けて、九州大学の存在をアピールすることが、今後の本学の進む道であります。

 アジアで学び、アジアで研究を行い、世界へ成果を発信する。アジアが十分活性化すれば、これは夢物語ではなく、実現可能な構想ですし、決してアジアに閉じた考えではなく、欧米亜の三極構造でのアジアの存在感を確立することで、世界へ開かれたアジアが現出することになるでしょう。

 すでに実現した構想もあれば、今後展開する構想もあります。それを活かすのは、まぎれもなく、本学の教職員・学生ひとりひとりの努力であり、国立大学法人化を受けた新生「九州大学」を大きく飛躍させるための意識改革であると信じております。

2004年8月1日
九州大学総長 梶山 千里

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