「生体リズムと健康」

川崎 晃一  編


 ヒトは通常朝目覚めて,昼活動し,そして夜は自然に眠りにつくという, およそ24時間の周期を繰り返している。このような生命現象の周期性に関 する研究の発展を目的とした「時間生物学(Chronobiology)」の国際学 会は,1937年に発足した。我が国でも,遅ればせながら1983年に,故高木 健太郎先生(参議院議員,名古屋大・名古屋市大名誉教授),川村浩先生 (現東亜大学大学院教授)らを中心に,全国組織の「生物リズム研究会」 (事務局:九州大学健康科学センター)が設立された。その後1986年に発 足した「臨床時間生物学研究会」と併合して,1994年に第1回日本時間生 物学会が開催された。

 1972年に,哺乳動物の生体リズムを司るといわれる生物時計が視床下部 (眼球の奥,頭の中央あたり)の視交叉上核に存在することが明らかにさ れた。その後25年経過した1997年に,時計遺伝子(clock gene)が単離 同定された。今や生体リズムに関する研究は科学の最先端の課題として注 目を集めており,日常生活の中や臨床医学の様々な分野でも広く認められ るようになってきている。例えば,日常経験する海外旅行時の時差ぼけ( 西行きフライトより東行きフライトの方が激しい)や睡眠障害の発生,ホ ルモン分泌のリズムとその異常,躁鬱病の発症時期にみられる周期性の存 在,喘息発作発症のリズム性,等が以前から知られていたが,不登校(不 出社),高血圧や心臓病等の循環器疾患,呼吸器疾患,老化,そして,妊 娠中の妊婦や胎児の行動,等にもリズムが存在することが分かってきた。 そして,「時間生物学」の観点からみた診断と治療の重要性が,臨床医学 の分野でも認識されるようになってきた。

 1998年,第5回日本時間生物学会(会長:九州大学健康科学センター川 崎晃一教授)が福岡市で開催されたときに,一般市民に「時間生物学」と いう耳慣れない学問を少しでも理解していただくことを願って市民講演会 を開催し,非常に好評であった。この書は,そのときの演題を中心に,さ らに「生体リズムと健康」に関わる身近なテ−マを加えて,現在時間生物 学に関する様々な分野で活躍されている第一線の研究者12名(共著者11名 )により執筆された一般市民向けの啓蒙書である。「胎児の時間生物学」 の共同執筆者である小柳孝司教授は,1999年8月に急逝され,本稿が最後 のご執筆となった。小柳先生のご意志を継ぐためにも,数多くの方に是非 ご一読いただきたいと願っている。

(学会センター関西/学会出版センターA5判260頁)


筆者:川崎 晃一(かわさき てるかず)
 健康科学センター教授


  1. 序にかえて −生体リズムと健康− / 川崎晃一 (九州大学 健康科学センター)
  2. 生体時計と時計遺伝子 / 本間研一(北海道大学 医学部 統合生理学講座)
  3. 胎児の時間生物学 / 堀本直幹,小柳孝司,中野 仁雄(九州大学 医学部 発達病態医学分野,ほか)
  4. 生体リズムと不登校(不出社) / 三池輝久(熊 本大学 医学部 小児発達内科学講座)
  5. 生体リズムと高血圧 / 上園慶子,川崎晃一(九 州大学 健康科学センター)
  6. 生体リズムと心臓病 / 大塚邦明,久保 豊,品 川 亮(東京女子医科大学第二病院 内科学講座)
  7. 生体リズムと喘息 / 西川圭一,石原 裕,井尻  裕,田村康二(山梨医科大学 内科学第二講座)
  8. 生体リズムと時差ぼけ / 高橋敏治,佐々木三男 (東京慈恵会医科大学 精神神経科)
  9. 生体リズムとメラトニン−睡眠障害との関連で− / 大川匡子,内山 真(国立精神・神経センター 精神保健研究所)
  10. 生体リズムと老化 / 三島和夫(秋田大学医学部 精神科学講座)
  11. 生体リズムと躁うつ病 / 山田尚登,大門一司( 滋賀医科大学 精神神経科学講座)
  12. 生体リズムと薬物療法 / 中野重行(大分医科大 学 臨床薬理学講座)