ミレニアム座談会
21世紀の九大を考える


 

九大生への要望,期待

杉岡:最後に,皆様それぞれのお立場から,これから求められ る人物像,九大生にはこうあってほしいというようなことを,お話しい ただきたいと思います。

 

「自分のアイデンテ ィティーを持っていること。そのためには,きちんと本を読むこと。」 (箱島)

 

箱島:たくさんありますが,まず申し上げたいのは,「自分の アイデンティティー」を持っていること。人間の存在感に関連すること です。これはひとには譲れない,これなくして何の自分の人生かという ようなものを学生のときに身に付けてほしい。ノーベル賞受賞者やゴー ルドメダリストになるには特別な才能が必要でも,普通の社会人として 貢献していくには,普通の知力と体力があれば,さほど特別な能力は必 要ないと思うんです。ただ一点,そういうアイデンティティーがないと, 人の評価や人事が気になってしようがないというようなことになる。そ ういう,生きる上で一番大事なものを,学生の時にぜひ身に付けておい てほしい。

 それから,やはり4年間まとまった時間がたっぷりあるわけですから, 勉強してほしいと思います。アルバイトもやらなくていいのならやらず に。仕事は社会に出てイヤというほどやらされるわけですから。私は学 生時代,家業に忙しく学問に親しむ環境になかったので,余計にそう思 います。それと自分の世界を広くするために,外国語を一つは修得して ほしい。そしてこれはどうすればアイデンティティーを身に付けられる かということでもあるのですが,きちんと本を読むこと。ちゃんと自分 を持っている人は,例外なく活字人間です。

 大学生が新聞を読まなくなった。これには作る側の努力不足もありま しょうが,主体的に問題意識を持って情報を吸収し知恵を身に付けるこ とができるのは,やはり活字によってしかないだろうと思います。グー テンベルグ以来の活字文化の担い手,継承者が学生です。それが新聞を, 活字を読まなくなるというのは非常に由々しきことです。飛躍するよう ですが,民主主義というのは,ある一定の情報と判断力を持った人間の 存在を前提としている。それがなくなったときは恐るべき政治体制にな り得るわけで,そういうことからもこれは重要なことです。

 

「自分のことだけ考え るのではなくて,常に社会のことを考えていく,そういう志を持つこと で10年,20年後には大変な差がつくと思う。」(古川)

 

古川:九大生は,素材として非常に豊かなものを持っている。私 は九大生に,「志を持った人間」になってほしいと思います。社会とのつ ながりを常に意識してほしい。社会に有用な人間であろうとする人は,あ る意味で志を持った人間だと思います。それは,結局自分を利することで もある。自分のことだけこぢんまりと考えるのではなくて,常に社会のこ とを考えていくというような,そういう志を持つことで10年,20年後には 大変な差がつくと思う。

 それではどうすればいいかというと,箱島さんと全く同感で,本を読む こと。読むだけでなく,考えること。例えば,短くてもいい,日記をつけ ることで漠然と過ごした一日が整理される。それを長く続けること。もう 一つは友人,先輩,外国人などいろいろな人といろいろなテーマについて 話しをする。そういうことは考えるということがないとできない。自分の 言葉で話すためには,考えないとダメなんです。
 九大生には,志を持ち,野性味を持ち,こぢんまりまとまらず,挑戦す る気持ちを失わないでやってほしい。それが立派な社会人,充実した人生 につながる。基本は4年間の過ごし方です。自分でもなかなかできない理 想的なことを申しましたが。

 

増田:「物作り」の立場から申し上げます。理工系離れ,製造業 離れと言われて久しく,最近は情報化時代ということです。私は常々,日 本は生産立国,技術立国でなければならないと思っています。天然資源が ないので,それを輸入し加工して使うということをやらなければならない。 つまり人や技術を大切にしなければならない。
 そういうことで学生を見た場合,最近は自ら考え自ら解決するという学 生は少なくなりつつあるかなという感じがします。九大出身者を見ると, 飛び抜けて優秀な人はあまりいないが,実務的で実際に仕事ができるとい う印象を持っています。

 九大にお願いしたいのは,やはりベースとして学部時代の4年間で,基 礎的な知識,人間としての素養,語学も含めて,そういうことをしっかり 教えていただきたい。即戦力でなくてもいいのです。大学院では専門を深 く掘り下げていく。社会に出てから,自分で考える力のある人,独創性の ある人を育ててほしいと思います。
 素養,教養ということで申しますと,今の若い人たちには,人生観,社 会観,職業観といったものが希薄なのではないかと思われます。社会に出 て,自分の仕事が喜ばれている,社会に貢献していると言える人になって いただきたい。また,知識知恵,情緒情熱,意識意欲,この「知情意」の 三つが大切だと思います。この三つを大学でも教えていただきたいなと思 っています。

 

廣田:東京というところは一種異様な土地柄とでも申しますか, ある意味ではもうダメな所です。私は蕎麦が好きで,出張したときにその 地方の蕎麦屋で地元の人たちとお話していると,日本の本当にいいものは, 地方に隠れた存在として残っていると感じます。日本の底力はどこにある のかを考えさせられます。福岡に根を張っている九大には,その意味でも 期待しています。

 皆さん仰有るように,九大生はちょっと見た目は地味なんです。弁舌さ わやかには程遠いが,非常にしっかりしたものを持っていると思います。 私が教えた人の中には,驚くほどどんどん力を付けた人もいる。非常に優 れたポテンシャルを持っている人もいます。ぜひ,目先のことにとらわれ ないで,目線を遠くに据えてじっくりやっていただきたい。ここに御出席 の皆さんのようなリーダーになる人も出てくるでしょうし,社会の中でし っかり日本を支える大衆の中のリーダーになるような人もたくさん出てく ると思います。そういうこれまでの伝統を引継ぎ,学生をしっかり育てて いただきたいと思います。

 

杉岡:本日はすばらしいお話をありがとうございました。体質改 善を求められていることは,私どもも自覚いたしております。これからは 守りでなく攻めの姿勢で,どうしたら九大の力が発揮できるかを考え,ピ ンチをチャンスに変えていきたいと思いますので,今後も御指導をよろし くお願いいたします。どうもありがとうございました。