大学改革 〜改革の進捗状況〜

教養部廃止と全学共通教育


大学教育研究センター
押 川 元 重

 45年間の歴史をもつ教養部が廃止されたのが平成6年3月末でしたので,それからすでに4年以上が経っていますが,いまだに教養部はなぜ廃止されることになったのかという議論が続いているほどその影響は大きいものがあります。教養部が廃止された段階で,学部がそれぞれ独自に学部教育のすべてを実施するという道を採用することも理屈のうえではありえたわけですが,そうはならずに全学のすべての部局が協力して実施する全学共通教育を創設することになりました。その準備の時点において教養教育等の縮小の必然性を強く主張する意見も一部にはありましたが,新しく創設された全学共通教育においては,教養教育を引き続き重視して新しい工夫を凝らして実施していくことになりました。新しい工夫の一つは教養教育の柱として9つの科目からなるコア教養科目を設け,学生に必修に近いかたちで履修させることにしたことです。また,コア教養科目による教養教育を補強するものとして周辺教養科目を設け,授業担当教官は自由に科目内容を決め,学生は全く自由に選択履修できるようにしました。さらに,高年次履修の教養科目も設けました。外国語教育については,いっそう外国語運用能力の育成を重視するとともに,国際化社会における異文化理解の教育も重視して言語文化科目を設けました。保健体育については,生涯健康と生涯スポーツを目標とした健康・スポーツ科学科目を設けました。基礎科学の教育については,理系諸科学を通して共通基盤となる自然科学の基礎的な知識や方法を教育するものと位置づけるとともに,より高いレベルの学習を可能とする上級基礎科学科目を新しく設けました。

 新しい全学共通教育にとって重要なことは恒常的に点検・評価しながら改善を進めていくことをその出発に当たっての基本方針として定めたことです。それにもとづいて,学生や教官を対象にしたアンケート調査が継続的に実施されており,そこで明かになった問題点の改善が取り組まれています。そうした調査結果にも表れていることですが,コア教養科目や言語文化科目についてはまだまだ改善すべき点がたくさん残っている一方で,周辺教養科目や高年次教養科目については,学生からも積極的な評価がえられています。新しいカリキュラムの特徴は,専攻教育と全学共通教育とを4年(6年)一貫で実施することをめざしたことですが,本学のキャンパス事情はその実施を困難にしています。しかし,通学時間や交通費などの問題を抱えながらも一貫教育に一歩でも近ずくことをめざして,学生が週の1日を箱崎地区または病院地区に移動して学習するシステムを導入しました。この新しいシステムについてはいくつかの学部を除いて多数の学生から歓迎されています。

 本学は大学院を重点とした大学をめざしており,教官が大学院研究科に所属するという組織形態の変更が進行しています。そうした変化にあわせて学部教育,特に全学共通教育のあり方の検討が進められました。そうした検討を通して,全学共通教育の実施の現状と問題点の改善が課題となり,平成11年度から実施されるカリキュラム案としてまとめられました。新カリキュラムでは,全学共通教育科目の範囲で自由に選択履修できる広域選択履修方式をさらに拡大して,あらゆる学部の専攻教育科目と全学共通教育科目の中から自由に選択履修できる総合選択履修方式が導入されることになっています。これは,部局間の壁を低くして柔軟性のある大学をめざす九州大学改革大綱案の理念を学部段階の教育において実現しようとするものです。これによって学生はあらゆる学部の授業科目を履修することが可能になりますし,定められたカリキュラムに基づく外国語コミュニケーション科目を修得すれば,そのことを認定するシステムも導入されますので,希望する学生がいっそう外国語学習に集中することが可能になります。

 このように本学は学生の個性と能力を生かしうる多様で柔軟な教育システムの実現を図ろうとしています。当面はキャンパス条件からくる制約もありますが,こうした取り組みは元岡地区統合キャンパスが実現すればもっと大幅に可能になるものです。キャンパス統合以前にも,教育についての点検・評価とそれにもとづく改善の取り組みを積み重ねることが重要ですし,なかでも,研究大学にふさわしい質の高い全学共通教育をつくりだすための安定した全学協力体制をつくりだすことが最も重要な課題になっています。