大学改革〜改革の進捗状況〜

理学部の大学院重点化       
〜21世紀へ向けての制度改革〜


理学部長 大 川 尚 士

 理学は自然界にひそむ普遍的真理の探究を目的とする点において,固有の応用目的をもつ他の学問分野とは理念を異にする。理学の理念はいつの時代にも変わるものではない。しかし,理学の急速な発展に伴って,物理,化学,地学,生物学の専門域を越えたところで重要な研究課題が次々と生みだされるようになり,新たな課題にいつの時代にも対処できるように,理学部の教育研究体制を改編することが望まれていた。理学部では,数理学独立研究科構想(及び生命科学研究科構想)と平行して,平成4年から研究科の改編が熱心に討議され,平成7年度概算要求書に理学研究科再編計画が盛り込まれた。この思想と骨子は,本年度より進行中の大学院重点化に引き継がれている。

 理学部の大学院重点化の特色は,従来の「物理,化学,地学,生物学」の学問体系にかえて,「クオーク,核子,原子核,原子,分子,凝縮系(固体液体),生命体,環境,地球惑星,宇宙」と連なる自然界の階層性を新たな規範として,この「学問の階層性」の枠組みのもとで理学の教育研究を行うことにある。このような九大方式の改編計画は,文部省からも評価をいただいている。すでに平成2年に地質学科を地球惑星科学科に名称変更し,平成4年にはこれに物理学科の一部を改組して地球惑星科学科の整備を行っている。これは新しい枠組みのなかでの制度改革を先行させたものである。

 新しい理学研究科には「基礎粒子系科学,分子科学,凝縮系科学,地球惑星科学,生物科学」の5専攻が設けられ,教官組織はここに移される。平成10年度に基礎粒子系科学,分子科学,凝縮系科学の3専攻が認められ,平成11年度に残りの重点化が実現の見込みである。基礎粒子系科学専攻は粒子宇宙論,粒子物理学,多体系基礎論の3大講座からなり,物質の基礎をなすクオーク〜原子核と,これと密接に関連する宇宙についての研究及び大学院教育を担当する。分子科学専攻は有機化学系,物理化学系,生物化学系,物質変換化学(協力,有機化学基礎研究センター)の4大講座からなり,物質の基本となる分子を対象とした教育研究を行う。特筆すべきは凝縮系科学専攻であろう。これは凝縮系基礎論,複雑系科学,量子物性科学,集合系無機化学,集合系分子化学,集合系物理化学,物理有機化学(協力,有機化学基礎研究センター)の7大講座からなり,物理学科から20名(教授8,助教授6,助手6)化学科から28名(教授9,助教授9,助手10)の教官が参画して,物理・化学の枠を越えて凝縮系物質科学の教育研究が行われる。このような物理と化学の融合は他に例を見ない。本理学研究科の目玉として設置された凝縮系科学専攻には多くの期待が寄せられている。

 平成11年度設置予定の地球惑星科学専攻は,生物圏進化学,太陽惑星系科学,流体圏科学,物質循環科学,固体地球惑星物理学,地震学火山学(協力,島原地震火山観測所)の6大講座からなり,環境から地球惑星の分野の教育研究を担当する。生物科学専攻は動態生物学,情報生物学,分子集団遺伝学,生体物理化学,生体高分子学,海洋生物学(協力,天草臨海実験所)からなり,生命体及び生命現象の教育研究を担当する。

 平成10年度の重点化では客員教授ポスト1が認められた。平成11年度にも引き続き客員教官ポストの要求を行っている。客員ポストは,理学研究科の教育研究の充実はもとより,西日本地区の大学教官との交流に役立てることができる。

 同じ理学のなかにあって,理学研究科と数理学研究科の分離独立は,学問の性格からして当然の成り行きであった。充実した理学の教育研究を行うためには,二つの研究科の密接な相互協力が今後とも必要であることは言うまでもない。

 以上のような大胆な大学院の制度改革とは裏腹に,学部の学科は「物理,化学,数学,地球惑星科学,生物学」と従来のままとした。これは受験生に配慮したもので,理学の入口を分かり易くするねらいからである。なお,平成10年度に物理学科に情報理学科目が設置された(定員12名)。これは情報化社会に柔軟に対応できる人材の育成と,21世紀には理学研究においても'情報'の重要性が急速に高まることを予測して計画されてきたものである。情報理学の講義は,理学部教官に加えて,システム情報科学研究科・情報理学専攻の教官の支援のもとに行われる。

 理学部では平成9年に外部評価を行い,これをもとに(1)制度改革と大学院重点化,(2)新キャンパスへの早期移転,(3)理学教育研究拠点の確立,を目標として掲げた。21世紀に向けての制度改革と大学院重点化は順調に進んでいる。新キャンパスへの移転統合は時期を待つしかないが,西日本地区における理学教育研究拠点としての自覚にたち,一層の充実と発展を期するものである。