21世紀は数理科学の時代

大学院数理学研究科長  鎌 田 正 良

万物は全て数である
〜時代の求めに応じる8講座〜

 数理学研究科は,九州大学の数学における教育・研究を担う中核的存在となる責務を負う機関として平成6年に設置されました。

 万物は,すべて数である。古代ギリシャ時代,ピュタゴラス学派の人たちは,このように考えました。数は,それ自身おもしろい性質をたくさん持っていますし,図形の性質を調べる上で当然のように使われている長さとか角度という量は,図形が持っている美しい性質を見事に表現します。古代ギリシャの哲学者たちを悩ませた運動の記述についても,17世紀頃から考え出された関数という概念や微分積分という概念によって,きちんと捉えることが出来るようになりました。このようにして,数学は,近代社会を支える科学文明の基盤を築く役割を果たしてきたといえましょう。

 今や,人々の生活は,急速に変化し,自然環境,社会環境,経済環境,等々,どれをとっても前世紀では考えられないような状況となっています。その上,コンピュータの急速な発達は,大量の情報を処理することを可能にし,近い将来には,人工頭脳を実現するようなコンピュータが現実の物として身近に現れることでしょう。今まさに,数学は新たな概念の構築が求められており,現代生活を支える科学的基盤に数理科学の立場から積極的に新しい提案をすることが求められています。本研究科は,このような認識に基づいて,代数構造講座,空間構造講座,関数構造講座,離散数理講座,非線形数理講座,数理システム講座,計算数理講座,社会数理講座の8つの大講座から成り立つ研究科として発足しました。

充実したスタッフ,多様な就職先

 本研究科は,先端的研究分野において中心的役割を担い,世界をリードする理論を持って活躍されている方をたくさん擁しており,日本の数学の研究科としては類をみない82名という大規模の数学者集団で構成されています。最近のことで特筆すべきことは,2年前に創設された若い研究者に授与される学会賞(建部賞)を,本研究科の研究者が2年連続して授与されたことであります。

 本研究科の修士課程は学年定員56名,博士課程は学年定員35名であります。大学院生に期待するところは,もちろん,厳しい研鑽に培われた強い探求心を持って,魅力的で画期的な新しい数学的発見をもたらしてくれることであります。しかしながら,狭い研究の枠の中に閉じこもったものばかりではなく,数学が持っている限りない汎用性を充分に生かして,大学院で得た深い数学の素養を実社会にダイナミックに展開し,いろいろな産業界に率先して進出し,リーダーシップをとって活躍する人を輩出したいと考えていることは申すまでもありません。実際,過去5年間の就職状況は,研究・教育機関関係以外に,国家公務員,地方公務員,コンピュータ,保険,金融,出版,製薬,家電,商工会議所,等々,このところ急速な勢いで卒業生の就職先に多様性が現れ始めました。在学生の中には,報道関係,アパレル産業さらにベンチャー企業など幅広く視野を広げて活躍の場を求めたいと思う人もでてきました。「数学的な理論的思考訓練は現在のような複雑な社会構造の中では最も重要な要素の一つです。」これは,本学数学科を卒業され,社会の第一線で活躍されている先輩からの後輩に対するエールです。

思索の世界への招待

 理学部数学科の入学試験は,前期日程,後期日程以外に推薦入学の機会があり,3年次編入学も受け入れています。また,大学院数理学研究科は社会人の入学も受け入れています。教育現場や企業現場で働いておられる方々のなかに,もし,知識基盤をさらに充実し,新しい事実への探求心と研究意欲を燃焼したいと思われる方がいらっしゃるならば,是非,入学していただきたいと思います。

 本研究科は大学院数理学研究科の教育だけではなく,理学部数学科,全学共通教育を始め,数学教育の責任母体として,よりよい教育を行う努力をしてきました。表層的な物の見方で,目先の実利ばかりに心を奪われてしまう人ではなく,物事にじっくり取り組んで,落ち着いて,よく考える人を育てる環境作りを基本において,新しいカリキュラムの検討をしています。未解決問題をたくさん抱えている数学の世界,あくなき人類の知的探求心を躍動させる数理現象の世界,そして,人類の未来に新しい発展を促す基盤を作る数理の思索の世界,ここに自己実現を求めている方を数理学研究科は歓迎します。設立されてから5年になる数理学研究科には,まだまだ取り組まなければならない課題がたくさんありますが,学内外の御理解を賜りながら着実に成果を上げ,多くの方々の御期待にこたえるよう努力いたしたいと考えております。今後とも御支援のほどをお願い申しあげます。


写真の説明

どうすれば上の図形は下の図形になるでしょう