大学院総合理工学研究科の組織改編
大学院総合理工学研究科長 村 岡 克 紀
大学院改革のさきがけ 今でこそ学部や大学院の組織改革は日常茶飯のことになりましたが,これは主として平成3年に出された大学審議会答申(大学設置基準の大綱化が中心)以来のことで,最近数年間のことであります。
しかし,九州大学では昭和40年代の大学紛争時の反省から種々の改革の検討がなされ,その一つとして四つの研究科からなる学際大学院構想が立案され,まず昭和54年度に大学院総合理工学研究科が設置されました。それは『物質』『エネルギー』『情報』のくくりを三本柱として,全国に先駆けた大学院だけの独立研究科として発足しました。その意味で,本研究科は日本の大学院改革のさきがけとなったと自負しています。
本研究科は当初の昭和54年には,材料開発工学,分子工学,エネルギー変換工学,情報システム学の4専攻で発足しましたが,その後昭和59年度に高エネルギー物質科学専攻を設置,昭和61年度に熱エネルギーシステム学専攻(昭和56年度設置)を工学研究科より移行,平成2年度に大気海洋環境システム学専攻を設置と充実を遂げてきました。この発展の過程で,上記三本柱に加えて『環境』が大きな柱として加わりました。
これらを通じて,本研究科は設立以来約20年間にわたって,理工系の学際的分野の教育研究に先導的役割を果たしてきました。最近数年間の全国の基幹大学の,特に工学系の大学院重点化のくくりがこれまでの本研究科のそれと同じような形になっているのを見ると,本研究科を構想された先人の先見の明を再認識させられます。と同時に,本研究科は当初の先駆的な設置目的を果したとの認識の下に,今後10〜20年後の大学院教育のあるべき姿を模索した改編への動きも加速しました。
未来を見据えた改編 この改編の検討の中で強く意識されたことは,大学院教育が社会のニーズにどう応えられるか,ということです。本研究科が関与する分野で言えば,社会構造が高度成長・開発型から,地球環境の保全を強く意識した環境共生型へと転換してきた事実があります。すなわち,人類社会には,エネルギー確保,環境保全を経済成長を維持しながら達成するというトリレンマ(三者相克)の克服が最大の課題になっています。
本研究科では,従来より上記各専攻を通じて新規産業のシーズ形成,新エネルギー開発や省エネルギー技術開発,環境保全を目指す教育研究を行ってきました。そこで,専攻を,経済成長・エネルギー確保・環境保全の三者の調和ある発展を明確に意識した組織と教育方針のもとに再編成する方針をたて,本研究科を中心として,工学研究科,附置研究所を含めて検討してきました。それに基づく改組案が認められて,平成10年度より量子プロセス理工学,物質理工学,先端エネルギー理工学,環境エネルギー工学,大気海洋環境システム学の5専攻からなる新研究科として発足しました。
本研究科は,大学院独立研究科であるとの立場から,社会にインパクトを与える新しい学問分野を切り開くことを強く意識した専攻構成をとっています。各専攻は,生活を支える産業基盤の創生への貢献(生活軸)及び人類生存基盤の確立への貢献(生存軸)という2つの基軸の中で位置づけており,それぞれの視点からトリレンマの克服のための教育研究を行います。同時に,共通講義,横断科目,副専攻制度などを通して各専攻間の有機的な連携をはかり,それぞれの専門について深い学識を持つと同時に,広い視野と柔軟な思考力を兼ね備えた研究者や技術者の育成を行います。
本研究科の教育研究目標を約言すれば,「未来を見据えた物質・エネルギー・環境を融合した学問体系の構築とそれを身につけた人材の育成」となります。このような教育研究目標を掲げた大学院研究科は,国内はもとより世界的に見てもなく,その成果は今後の人類社会に大きく貢献するものと期待されています。
各専攻の目標
量子プロセス理工学 環境調和型未来技術として勃興しつつある量子プロセスを利用した新先端科学技術教育の推進 物質理工学 地球上の生命の豊かな営みを保証する新しい物質科学教育の推進 先端エネルギー理工学 地球環境負荷の少ない先端エネルギー開発のためのエネルギー科学教育の推進 環境エネルギー工学 環境と調和したエネルギー利用のためのエネルギーシステム工学教育の推進 大気海洋環境システム学 大気海洋圏環境を理解し予測する地球環境科学教育の推進