ルンド大学(スウェーデン)

ルンド大学とドームシルカン

工学部教授  神 野 健 二

 デンマークの首都コペンハーゲンから高速艇で45分程度で対岸のスウェーデンマルメ市に着く。ルンド市へはさらに電車で20分くらい,または車でも20分くらいで着く。町の中心には写真のように2つのタワーを持ったドームシルカンと言われる教会があり,町のシンボルになっている。ルンド大学の本部はこの教会から100mくらいの距離にある。マルメ市にも同大学の演劇学部がある。ルンド市の人口は現在およそ10万人である。そのうち学生数は43,000人で北欧最大の大学となっている。大学や隣接する企業関係者を含めるとおよそ8万人が大学に関係しているいわば大学の町である。そのため,町には外国人研究者が多い。

 大学の概要は現在以下のようになっている。設立は1666年で,北欧初の高等教育機関である。研究・教育活動は地域情報の供給源となっているとともに,スウェ−デン南部の発展に重要な役割を果たしている。創立当時から3世紀にわたり神学・法学・医学・哲学の4つの学部で教育を行ってきたが,今日では9つの学部すなわち,工学部,理学部,法学部,社会科学部,医学部,歯学部,教育学部,芸術・神学部,演劇学部を有している。 

 工学部は1965年に創立され,工学物理学科,電気工学科,コンピュ−タ科学科,機械工学科,土木工学科,化学工学科,測量学科の7つの学科に6,000人の学部学生,500人の大学院生が学ぶ。また工学部では,スウェ−デンで唯一の火災安全工学の教育課程に加えて,食品・製紙産業についての教育も行っている。理工系キャンパスの裏手には大学の研究に関連した多くの民間企業が事務所を開設しており,大学と活発に交流している。筆者が滞在したのは1987年秋から1988年夏までで,この間あまり企業進出数は多くはなかったが,最近では隣接敷地に民間企業の事務所や工場が多く建設されている。またテトラパックで有名な会社,熱交換器で有名な会社の本社のほか,医療器具会社の工場もルンド市にある。筆者の滞在の世話をしてくれたRonny Berndtsson助教授が1991年に来日し1年半滞在した。その後も相互に頻繁に行き来した経緯から,1993年に本学工学部,総合理工学研究科とルンド大学工学部との間で交流協定を結んだ。これまで当方からは2人の修士課程の学生ほか,延べ14回ルンド大学を訪問した。またルンド大学からは博士課程の学生のほか,訪問者の数は延べ15人に上る。なお,現在は筆者の研究室には2人の訪問研究員が滞在しているとともに,ルンド大学の水資源工学科には,農学部修士修了者が博士課程の学生として留学している。また,本学他学部の研究者の訪問も見られる。

 ルンド市のあるスウェーデン南部はメキシコ湾流のため,冬の気温でも平均マイナス2〜3℃程度とか。寒いときにはマイナス10℃まで下がったことがあるという。夏の天候は不安定であることが多いようである。今年は雨が続き,気温も20℃以上に上がらなかったと聞く。しかし,町の中には緑があふれ,落ち着いて静かに研究を行うことができる。ドームシルカンの写真には数カ国の国旗が揚げられているが,これは学位論文の取得者の出身国である。教会の中で授与式が執り行われ,外では各人に対して祝いの大砲が放たれ地を揺する。また,9月の中旬には新入生歓迎のフェスティバルが催される。写真のように各学科の学生が仮装して大学本部(ドームシルカンの横)の周辺でパレードを行っている。治安はよく,夜中になっても一人歩きできる。ほとんどの学生が国からの奨学金で生活しているので,勉学に対する取り組みが真剣である。月額10万円程度で生活しているという。


(筆者紹介)

 神野健二教授は工学部附属環境システム科学センター水圏環境研究分野担当教授。専門は水資源工学。