特集「社会連携」

社会人再教育
 

社会連携推進委員会委員/大学院人間環境学研究科教授  
南 里 悦 史

はじめに

 社会人再教育が大学院改革の課題として急浮上してきたのは臨時教育審議会(以下臨教審)第二次答申であった。大学院の修士・博士課程における社会人受け入れの弾力化を軸に「パートタイムスチューデント」の受け入れ,「昼夜開講制の拡充,夜間大学院の開講」へ意欲的な提起を行っている。

 

社会人再教育の変遷

 それ以来,大学院改革には,昼夜開講制や社会人特別選抜が前提として受け止められるようになった。高度情報・技術社会や生涯学習社会における開かれた大学のあり方として,臨教審の高等教育改革の方向づけは今日の大学院改革に引き継がれている。

 しかし,夜間大学院や社会人入学の歴史は,すでに夜間大学院は1950年代末から工学系私立大学で実施され,1970年代半ばには工学・技術系私立大学院での昼夜開講の社会人入学が行われ,さらに臨教審と時期を同じくして1984年には社会人特別選抜が私立の理工学研究科で行われており,そして,1987年に筑波大学では文系大学院の夜間大学院の社会人特別選抜の受け入れがなされてきたのであった。

 平成10年10月に「21世紀の大学像と今後の改革方策について」(大学審議会答申)が出されたが,この答申は,これまでの大学院改革の流れからさらに大学院の機能拡充を求める改革提案であると言えよう。
 答申では社会人の再学習機能の強化と高度職業人の養成機能の一層の強化,幅広い年齢層の知的探求心への対応などをとらえた社会・情報・産業の高度化・専門化に伴う大学と社会との往復型生涯学習社会への転換をすすめるために大学院改革を位置づけようとするものである。

 すでに,大学・大学院では,大学院昼夜開講・夜間開講による入学,短・長期の職業技術研修のリフレッシュ教育,留学生の特別選抜受け入れ,公開講座の開催など大学では多くの社会連携事業を行ってきているが,同答申のキーワードは大学院の「高度化」「機能強化」であり,さらなる改革を求めていることになる。
 実際に,大学院の社会人特別選抜の状況では,「実施している大学院研究科数」(平成9年度)国立大203校,公立大3校,私立大243校の計476校である。さらに「夜間大学院及び昼夜開講制大学院(夜間主コース)の在学者数」(平成9年度)は,国立大463人,公立大0人,私立大1,101人の計1,564人である。

 

本学における社会人再教育

 ちなみに,九州大学において社会人再教育を実施している研究科は修士課程で6研究科,博士課程で8研究科で,社会人の入学者は修士課程36人,博士課程で75人である。社会人在学生の職種別では,大学・短大教官,小・中・高校教師,地方公務員,医師,会社員,各種研究所研究員などであり,高度な職業能力の形成や学位取得まで多様な目的をもって入学してきている。

 とくに,九州大学では,大学移転に伴う大学改革を進めるために「社会連携推進専門委員会」がつくられ,社会人再教育を含めた最終答申(平成8年3月)が出され,その答申の枠組みのもとで,社会人再教育については大学移転後の方策を含めたあり方のアンケートも実施されている。その結果の概要は,

1 大学院へのアクセスの改善を図るために,
(1)推薦制度や面接実施
(2)入学資格での実務経験の重視
(3)修学期間の弾力化
2 カリキュラムの改善による集中指導の導入
3 評価については研究能力への柔軟な対応を考慮しながらも学位授与については研究科の独自の裁量による専門性の重視

 など,具体的内容にまとめられている。修士課程での幅広い対応と博士課程での高度な能力形成とに截然とした対応の違いが見られるのもこのアンケートの重要な点であろう。

 

おわりに

 社会人再教育は,少子化,高齢者化による進学率の上昇と機会の拡大を展望した社会的要請から,新しい産業・経済・社会の分野での高度職業人,高度な指導者的資質をもった社会的指導者の育成まであるべき大学院改革としてのビジョンも大きくなってくる。

 しかし,同時に,九州大学の九州やアジア圏域のセンター・オブ・エクセレンスを考えたときの大学のあり方は何か,さらに,大学審議会もふれているように社会の要請だけに対応していくのではなく,同時に教育研究体制の整備が急務である。また,そのことは,関係自治体や企業との連携を無視してはできないことでもある。


教育方法の特例(昼夜開講制)の適用を受けている学生