特集「社会連携」

公開講座20年,そして今
 

公開講座委員会副委員長/大学院人間環境学研究科教授  
丸 山 孝 一


平成9年度は15講座に1,112名の受講者があった(放送講座は除く)
受講者の年令構成は講座によってまちまちである

タウンとガウン

 英語の古い語呂合わせにタウンとガウンという言葉がある。欧米の古い大学では今でも卒業式で教官も学生も帽子とガウンを身に着ける習慣があり,ガウンと言えば大学人という意味がある。そこで「タウンとガウン」と言えば一般市民と大学の関係を表すのである。

 九大人はガウンこそ着ないが,大学と社会との連携は,本学でも大綱案に盛られているように,重要な課題と認識されるようになった。これに対する答の一つが公開講座であるとわれわれは考えているが,実は本学が公開講座を始め,一般市民への知の還元を通して社会との連携を意識的に実践するようになって,今年でちょうど20年目になる。現在の学部の2,3年生が生まれた頃の発足である。

 

ニーズにこたえるテーマ

公開講座「農業と私達の食生活」搾乳体験風景  発足当時の記録によれば,昭和53年度,教育学部,医学部及び健康科学センターの3部局によって公開講座はスタートしている。翌54年度からは,全学を単位とする2講座と各部局による講座の2種類からなる制度が整い,今日に至っている。

 昭和50年代までは5ないし9講座が毎年開講されていたが,昭和60年度以降は一貫して今日まで2桁の講座数で,特に近年は14から16講座が毎年開講されている。大学を単位とする2講座は文系と理系に分けて実施されているが,各部局の講座は,それぞれの申告により文部省から予算配分を受けて実施する。講座の企画,運営等は九州大学公開講座委員会及び各部局の公開講座委員会で決定,実施されるが,その内容については,受講者の希望を十分考慮して決定される。

 講座内容は実に多種多様で,講座名を見ると,アジア,健康,環境,情報,高齢化,地域などがキーワードになっているようである。特に21世紀の・・・という句が平成9年度の15講座中4講座で使われているのは興味深い。主催者の自主性を主張しながらも,受講者の興味をリードする啓発的発想があると考えられる。健康や高齢化,情報といったトピックはいつも人気があり,希望者が定員を上回るほどであるが,このようなテーマの設定をすること自体,社会的ニーズに応えることと言えよう。

 

会場探し,天気予報

公開講座「農業と私達の食生活」体験風景  講座を開講するに当たって会場をどこにするかはいつも悩みの種であった。受講者の便宜を考えて,後援をいただいた西日本新聞社の会館をお借りしたこともあったが,新聞社の都合もあって,臨時に別会場に移動しなければならないことも再三あった。勿論予算の制約もあるが,定期的に曜日と時間を指定して10週間,というような会場の確保は容易でない。近年は学内の記念講堂会議室を使用しているが,ここも学内の他の行事に優先して公開講座を実施させてもらっていることを感謝しなければならない。定期的行事であるため,ほとんど毎年苦労するのは台風である。台風の予報があると,特に事務担当をしていただいている研究協力課の皆さん方や公開講座委員は天気予報と空模様を見比べながら,中止するか実施するか,決定しなければならない。遠くは大分県からの参加者もあるので,早めの連絡をしなければならないからである。

 以上のような形態のほか,九州大学としては,いわゆる出前の公開講座も実施している。たとえば直方市は過去10年来,毎週1回を数週間にわたって行うし,志摩町,久留米市,大牟田市などからの「注文」にも応じている。

 

新たな展開と課題

 また,平成8年度からは二つの新しい企画が始まった。一つは放送利用による大学公開講座で,全国を9ブロックに分け,その一つとして九州地区では10の大学・短大がこれに参加し,テレビとラジオにより共同で実施するものである。平成10年度は本学がテレビ部門の当番校で「現代の健康を探る」と題して,久保千春教授を主任講師に,杉岡総長以下12名の講師によって実施された(RKB毎日)。このプロジェクトは放送教育開発センターの委嘱により実施されてきたが,残念ながら,同センターの都合により,今年度限りで終了することになった。

 他方,8年度からは福岡市教育委員会を中心として福岡都市圏15大学連続公開講座が開始され,これは現在17大学になって本年度も盛会であった。平成8年度は第8回全国生涯学習フェスティバルが福岡県の当番で開催され,これが福岡都市圏連続公開講座の始まりであった。その中で,本学は中心的な役割を果たしている。

 このように九大と一般社会との連携は,公開講座を通して十分になされていると考えられるが,公開講座に対しては受講者に単位を出してほしいとか,夜間開講を増やしてほしいとか,あるいは学内での一般の授業に社会人を受講させてほしいなど,現在の制度ではすぐに対応が困難な要望も強い。また,他の大学や短大,専門学校,新聞社等で行われている公開講座と九大の公開講座が同様でよいのか,または異質の特徴をどう出すべきか,大学院レベルの公開講座は妥当なのか,などという多くの課題を抱えている。キャンパス移転を控えて,九大の公開講座はいかにあるべきか,全ての九大人の要望を出していただいて,よりよい公開講座の在り方を求めたいものである。

公開講座に関するお問合せは,      
九州大学研究協力課(092-642-2128)へ


平成10年度公開講座一覧