特集「社会連携」

地域結集型共同研究
新光・電子デバイス技術基盤の確立
 

大学院システム情報科学研究科教授  
鶴 島 稔 夫

変化の時代

 最近の経済,産業の停滞を脱却するために,あるいは,高度経済成長を支えてきた産業構造や社会基盤の新しい世紀に向けた改革を果たすために,産業技術と大学における学術研究との関わりをより密接なものとし,大学のもつ知的資源を新しい産業技術の育成や新産業の創成に活かす努力が必要とされています。大学が地域社会や産業界の要請に積極的に対応し,今後の社会の発展に資する開かれた教育研究機関となることの重要性は,21世紀の大学像を展望した今回の大学審議会答申でも強調されています。大学はいま変化の時代にあります。

 

21世紀に向けた産業技術の創成

 このような情勢を背景に,平成9年度から,科学技術庁の新施策の一つとして,地域結集型共同研究事業が実施されています。この事業は,地域の大学や研究機関にある高水準の研究資産や技術シーズと地域産業や行政のニーズとを結合して,新しい産業技術の育成や新産業の創成をはかり,これを通じて,地域独自のセンターオブエクセレンス(COE)を形成することをねらいとしたものです。

 この制度の初年度テーマの一つとして,福岡県で「新光・電子デバイス技術基盤の確立」がスタートできることになったのは,大変意義の大きいことと思われます。九州大学を中心とする福岡地域に,光や電子関連材料の高水準の研究成果の蓄積があり,また,この分野が,21世紀の情報化社会発展への寄与という観点からますます重要性を増すと期待されるもので,地域産業の活性化に欠かせないと考えられるからです。

 

地域結集型共同研究とその推進体制

 このプロジェクトの大まかな内容と推進体制をに示します。県の産業・科学技術振興財団が実行体制の中核機関となり,工業技術センターにコア研究室が作られています。この体制のもとで,3つの研究開発テーマが,5つの研究グループに分けて進められています。参加大学は九州大学,九州工業大学,福岡大学の3大学,国公立研究機関4機関,民間企業11社,ポスドクの雇用研究員14名,企業派遣研究員6名,関係研究者は総計87名に達します。

 研究テーマの一つは,フォトクロミック材料に関するシーズを基に超高密度の光メモリなどへの応用を探る近接場光技術と,高分子と液晶の複合膜に関するシーズを基に大面積表示装置や光シャッタなどの開発を目指す複合液晶膜技術,からなる新しい記録・表示に関する技術の確立です。

 二つ目は,ガラス,セラミクスなど無機系の材料の新機能や簡易な構造の可変波長レーザの可能性を追求する無機フォトニクス材料技術と,有機系新材料や生体高分子の機能を利用する光電変換機能材料技術,からなる新しいフォトニクスデバイス材料の開発です。

 三つ目は,新しい光・電子材料をデバイスとして構成するための基盤を担う薄膜形成技術,精密計測・評価技術などの開発と,他のグループが生み出した新しいデバイスの実装分野を支援する共通基盤技術の確立です。

 これらの研究開発を,平成9年11月からの正味5年間で実施し,福岡地域に新しい光・電子材料やデバイスに関する技術基盤を確立していく計画です。

 

国際協力と地域COE

 このプロジェクトのもう一つの特質は,若手研究者の国際的な広がりにあります。特に,アジア地域からの参加者が多く,現在のところ,韓国,中国,インドから合計15名,それにドイツから3名の研究者が集まって,コア研究室や大学,国立研究所などで共同研究に従事しています。

 スタートからほぼ1年を経たプロジェクトですが,さらに広く地域全体としての御理解と御支援を得て,その成果を実り多いものとし,先端的な産業技術基盤の醸成や地域の新しい雇用環境の創成に役立てたいと考えています。