大学院比較社会文化研究科の改革構想
大学院比較社会文化研究科長 有馬 學
- 設置の経緯
- 本研究科の設置の背景には,ふたつの異なる契機が存在しました。ひとつは,全学共通教育の改革とそれに伴う旧教養部組織の全面的な改編の要請であり,もうひとつは,既存の学問研究の枠組みを越えた学際的な研究・教育の組織化を目指す関係諸部局の多年の模索です。
平成6年,この二つの契機の交錯点に,日本社会文化専攻と国際社会専攻の2専攻からなる学際的な大学院として,本研究科が発足しました。その構成は,教養部,文学部,経済学部,法学部,言語文化部からの定員振替による9基幹講座と,文学部,経済学部,法学部,言語文化部,理学部,石炭研究資料センター,熱帯農学研究センター,留学センターの協力を得た9協力講座から成ります。平成9年には,国際連合地域開発センター(地域社会環境開発分野)と自然環境研究センター(自然保全情報分野)が連携講座として加わりました。
- 理念と特色
- 本研究科の特徴は,文理にまたがる広汎な専門分野のスタッフを擁し,文系と理系が融合したかたちで研究教育を進めようとしていることです。「国際化の進展,情報化の進展,地球環境問題の深刻化」などの諸問題は,既成の学問の枠組みでは捉えきれない広がりと深さをもって進行しています。そうした今日的な問題へ対処するという,設置の目的を達成するためには,もはや狭い専門分野に自閉し安住することは許されません。
そのことを自覚し,研究科の理念を示すキー・ワードとしてわたしたちが掲げたのは「越境」です。それには,二重の意味が込められています。一つには,国際化,情報化,環境問題のいずれもが,一国の枠内ではおさまりきらず,グローバリゼーションと呼ばれるような,国境を越えた現象であること。しかも国境にかぎらず,従来のものごとの枠組みや境界を越えた事象の方こそが常態になりつつあること。それゆえ,「越境」の第二の含意は,そうした現実に対処するために,既成の学問の枠組みを越えた研究協力や,さらには新たな研究のスタイルを模索しなければならないということです。
学生一人一人の問題関心や研究計画は,従来の学問分野のいずれかひとつに必ずしも納まらないことが予想されます。むしろ学生の側の自由で柔軟な発想と思考が,新しい研究の領域とスタイルを切り開いていく可能性を大切にしたいと考えています。そのために,学生が選んだ3人の教員が「指導教官団」となり,研究の指導,助言,応援にあたるシステムを導入しています。その3人は異なる講座に属することが普通ですから,それは小講座を単位とした特定学問の再生産に必ずしも特化しないことを意味しています。
- 今後の改革
- 長い歴史を持つ箱崎の各学部と比べて,歴史も伝統もないわたしたちの研究科が独自の存在理由と意義をもつためには,過去ではなく未来を志向せざるをえません。その際に私たちが共有している問題系の一つは,近現代(modernity)とは何か?それは,いかに形成され,何を達成し,どのような問題に直面し,いかなる未来を構想すべきかという問いです。現在の世界の成り立ちを解明し,別の世界のあり方を同時に考察することです。
設置から5年を経て,今年3月には完成年度を迎えますが,幸い10名近い学生に博士号を授与することができそうです。教員の熱意と院生の努力とがあいまって達成した果実であり,たいへんうれしく思います。けれども,わたしたちは現状に必ずしも満足しているわけではありません。
設置の目的をよりよく実現するためには,現行の日本と国際の二専攻は必ずしも最適の編成ではありません。そこで具体的には,地球環境の問題を文理にまたがって学際的に研究教育するため,新たに一専攻を立て,それにともなって日本と国際を社会情報と文化空間に全面的に改編することを考えており,目下その作業に取り組んでいるところです。
専 攻 講 座 日本社会文化専攻 社 会 構 造 地域資料情報
(自然保全情報含む)文 化 構 造 産業資料情報 基 層 構 造 経 済 構 造 比較基層文明 日本語教育 地域構造
(地域社会環境開発含む)国際社会文化専攻 アジア社会 異文化コミュニケーション 欧 米 社 会 国際言語文化 比 較 文 化 地球環境保全 比 較 政 治 地球自然環境 連携大学院講座
国際連合地域開発とセンターとの連携講座 −地域社会環境開発分野−
九州大学大学院比較社会文化研究科は,1997年から日本社会文化専攻の地域構造講座に地域社会環境開発研究指導分野を設けることになった。