チュラロンコン大学(タイ)
タイの首都バンコクのほぼ中心に広大な敷地を占めるこの大学は,名君の誉れ高いラーマ5世チュラロンコン王(写真上)によって創設されたタイ最古の大学である。今日でもタマサート大学と並ぶタイの最高学府であって,その歴史と権威は,卒業式を国王が主催し,学生一人一人に卒業証書を手渡す(写真下)ことにも表れている(タマサート大学も同様)。また,タイの政財官界でタマサートまたはチュラロンコン大学出身者ではない人たちを探すのは大変である。
喧騒たるバンコクの町の中央部にありながら,緑の多い広大なキャンパス(講堂は典型的タイ建築・写真右)は一度足を踏み入れると別の町に来たかのような錯覚を受けるほどで,清楚な制服を着た学生たちが恵まれた環境の中で勉学している雰囲気が伝わってくる。
九州大学は1994年5月30日に大学間交流協定を結び,活発な研究・教育交流を積み重ねてきている。過去5年の間に法学部,経済学部,農学部の教官が延べ12人派遣され,チュラロンコン大学のほうからは延べ6人が教育学部,法学部,経済学部,工学部,農学部を訪れた。学生(院生)も本学からは教育学部,法学部の院生が1年ずつ留学する一方,チュラロンコン大学からは主として法学部が延べ3名受け入れてきている。
法学部間には授業料相互不徴収条項も含む学生交流覚書が締結され,最も密接な交流がなされているが,とりわけ注目すべきなのは今年から始まる4大学法学部共催による国際経済ビジネス法修士プログラムである。4大学とは,チュラロンコン大学と九州大学に加えて,カナダのブリティッシュ・コロンビア大学とビクトリア大学であり,それぞれが2名ずつ(中心校としてチュラロンコン大学は4名)講師を派遣し,チュラロンコン大学のキャンパスを使って1年で法学修士号を出すプログラムを英語を用いて共同で運営するというものである。
なにやら,本学の法学研究科が行っている英語で行うLLMコースに,名称までが類似しているが,対象とする学生はまるで違っている。本学のLLMコースが主として外国人を受講の対象にしているのに対して,チュラロンコン大学のLLMの場合は9割以上の学生はタイ人である。特に未曾有の金融危機に陥ったタイにとって,外国に子弟を留学させることが富裕階級の人々の間でも難しくなってきている状況下で,外国の大学の講師陣がバンコクに出張してきてくれることは,国内にいながらにして留学したと同じ教育を受けることができるという魅力があるとされる。いわば国内留学である。
いずれにせよ,アジアに開かれた大学を目指す九州大学としては,そのアジアのひとつの中心となりつつあるタイの中心的大学であるチュラロンコン大学と交流を深めることは,意義深いことである。なお,もう一方の中心大学,タマサート大学とも法学部は交流協定を締結しており,つい最近も共同シンポジウム(「アジアにおける法律制度の発展−タイと日本の経験」)の第2回目を本学で開催したばかりである。
本頁の筆者,吾郷眞一(あごう しんいち)教授はILO(国際労働機関)を経て,平成5年本学の法学部へ。専門は国際経済法で,「アジアにおける経済開発と人権」が主要な研究テーマ。