留学生座談会
まずは九州大学で学んでいる留学生の皆さんの生の声を聞かせていただこうと,座談会を開きました。みんな外国から福岡へ来て暮らし学ぶなかで,私たちに見えない苦労をし,私たちも考えさせられる経験をしているようです。アジア,中東,南アメリカ,ヨーロッパからの6名の皆さんの声に耳を傾けてみましょう。
私たち留学生は,日本に慣れるのにちょっと時間が必要だということを,心にかけておいてください。
田窪(司会)
今日は皆さんの声を「九大広報」に掲載させていただこうと集まっていただきました。よろしくお願いします。私は田窪といいます。文学部で言語学を教えています。大学院生のころ,アジア,西洋,日本人が大体同数入っている京都の留学生寮で2年間生活して,留学生たちととても親しくなった経験があります。
まず最初は自己紹介を兼ねて,九大へ来た理由やきっかけからお話しください。リン(中国)
私の故郷は上海です。私の場合,両親が私の留学を決めてしまったものですから,親戚がこっちにいましたし,高校を卒業した翌年福岡に来ました。外国の大学なら専門の学問のほかにその国の言葉や文化も学べると思いました。日本語学校に通い,九大へは学部から入りました。4年間勉強しているうちに言語学に興味を持ち,大学院に進んで,今修士の1年です。言語学が段々おもしろくなってきたところです。ティーレ(ドイツ)
私は日本へ来て4年目です。私がドイツの学生だったころ,日本の経済がとても強くなりましたので,日本に興味を持ちました。三菱重工で実習したりして,大学を卒業すると文部省の奨学金で九大に来ました。ウェイ(ミャンマー)
私はミャンマーでもマスターに1年通ったのですが,大学が閉じられたので,九大の医学部にいた姉を通じて九大の物理の先生に相談して入ることができました。だから来たときは奨学金はありませんでした。キム(韓国)
韓国で日本語を勉強して,日本にぜひ行きたいと思うようになり,92年に来ました。故郷の釜山から福岡は近いですし,九大は名門ですから行きたいと思いました。今経済工学をやっていますが,4月から比較社会文化研究科に入って日本語教育を勉強するつもりです。専攻を変えるので,苦労しています。アブドラ(シリア)
95年の4月に来ました。ダマスカス大学を卒業した後土木会社で働いていました。日本のことは有名な会社の名前のほか何も知りませんでしたが,日本大使館に留学を申し込みました。採用になったときいいチャンスと思い,来ました。九大は文部省が選んでくれました。今博士の1年で,あと2年がんばります。サハデ(アルゼンチン)
来日して5年になります。以前から日本の文化に興味がありましたので,文部省奨学金に申し込みました。私の先生と九大の先生が知り合いで九大に来ましたが,来てよかったと思っています。田窪
皆さん今は日本語もじょうずで日本での生活も問題なさそうですが,来日当初はいろいろ御苦労があったのではありませんか。リン
九大は留学生の受け入れ体制がほかの大学に比べて整っていると思います。留学生へのケアの善し悪しも,大学を選ぶときの基準にすべきですね。日本語はテレビでたくさん覚えました。日本語学校に通っていたころはいろいろ困ったことがありましたが,九大では特にありません。ティーレ
最初の6か月は,日本語研修生として留学生センターに入りました。銀行口座や外国人登録などのことはセンターでやっていただきましたし,1年間は留学生会館に住んでいたので,生活のことは問題ありませんでした。日本語も6か月で日常のことは分かるようになりました。でも研究室に入ってから,そこの決まったやり方に合わせるのにちょっととまどいました。田窪
それはどういうことですか。ティーレ
研究のテーマや方法は研究室で決められ,自分でやりたいことや,やりたいようにはできないことがありました。自由度が,ドイツに比べてちょっと少ないかもしれません。ウェイ
私は姉とアパートに住みましたから,姉にいろいろ教えてもらいました。1年間日本語学校に通いました。修士の試験は英語でしたが,入ってから研究しながら留学生センターの日本語コースに通いました。週末は学費を稼ぐためにアルバイトをしました。大変でしたけど,アルバイトをしたおかげで日本語が使えるようになったと思います。入学してから1年半くらいで奨学金をもらえるようになり,少し楽になりました。キム
私は,最初自分でアパートを探して住みましたが,畳の臭いや部屋の狭さなど慣れるのに苦労しました。ウェイ
私は,1,2か月は食事が食べられず,半年で7キロ痩せました。味が全然違っていて,朝,昼の学校での食事がだめで,おなかが減っているときに食べられないために,夜に家で食べようと思っても食べられなくて。キム
私は,食事は大丈夫でした。韓国で時々日本食を食べていましたし。アブドラ
僕も日本の料理は全然口に合いませんでした。全部はじめての味で,日本ではごはんを食べることも知らなかったんですよ。スーパーで,豆腐をホワイトチーズと思って買ってきて,味がおかしいので塩をかけたりしました(笑)。今は慣れましたが,最初の1年半はちょっときつかったです。
日本は住みやすい国だと思いますけど,違う文化の国から来る留学生にとってはいろいろ問題があるんですよ。私も留学生センターで6か月間日本語を勉強しましたが,研究室に入って,複雑なことや専門的なことを日本語で言えず困りました。先輩の日本人の学生に頼らなくてはなりませんが,日本語のかわりに英語を使うとだんだん相手をしてくれなくなりました。私の専門の土木工学にコンピューターは必要ですが,日本語のメッセージの意味が分かりませんでした。教室の日本人学生とコミュニケーションできない,コンピューターは使えない。なぜ日本に来たのだろうと思いました。でもコンピューターのことは,先生に相談するとすぐ英語版のソフトを買ってくださって解決しました。留学生会館からアパートに移ったときもいろいろありました。夜中に帰ってみると天井から水がポタポタ落ちています。上の部屋のドアをノックすると女性の声がしました。「すみません,水が落ちてきます。ちょっとドアを開けてください。」「ドアそのままでしゃべって。」「水,困るんですよ。」「・・・」返事はなかったんです。一晩中水が落ちてきて眠れませんでした。翌日,アパートの管理人から先生のところに,私が夜中の12時に女性の部屋を訪ねたと苦情が来ました。
サハデ
文部省奨学金で来ましたから,ティーレさんと同じで特に困ったことはありません。ただ違う習慣にとまどうことはあって,焼き肉を箸から箸に取ろうとして,長いこと話題にされました。日本語は十分ではなかったので,研究室に入っても日本語の勉強を続けましたが,そのために研究のスピードが遅くなり,ストレスでした。ティーレ
私もそう,ストレスでした。田窪
研究のやり方が違うという話がありましたが,研究や学生生活での違いはほかにありませんか?アブドラ
日本では,がんばった学生も怠けた学生も一緒に卒業できるようです。進級や卒業にもっと厳しくてもいいと思います。リン
入試に合格した学生が,インタビューに答えて「これからはいっぱい遊びます」と言っていたのには驚きました。お金を払って勉強しているのに,休講になると喜ぶのもちょっと変じゃないですか。キム
それは人によると思います。私は九大の学生は優秀でよく勉強すると思います。田窪
これらはシステムの問題というより,個人の問題ですね。
経済状態が厳しくなり,これまでのように企業が教育するのでなく,学生が学校で何をどう勉強したかが重要になってくると,怠けた学生には厳しいことになるだろうと思います。
最後に,九大に来てよかったことを教えてください。また,九大に要望があればどうぞ。アブドラ
研究のための設備などが整っていていいです。企業のサポートもあっていろいろな実験ができます。それに,九大の先生たちはとても優秀だと思います。
でも,ちょっと建物が古いんですよ。狭いところで10人くらい一緒に研究していると,力が出ません。それから留学生センターの日本語コースは,前に比べて易しくなったのではないですか?新しい留学生のためには,もっと厳しい方がいいと思います。専門分野の日本語を教えてくれるコースがあるといいです。サハデ
九大は本当に設備が整っていて,分析やサンプル作りなどがすぐできます。私の研究にはとてもよい環境です。ただ,私のいる筑紫キャンパスには,留学生のための日本語コースも小さなものしかなく,留学生向けの情報も少ない。留学生はけっこういますから,留学生専用の掲示板があって,本部と同じように情報を張り出してくれるといいのですが。キム
奨学金制度は充実していると思いますが,日本に知り合いのいない人は,保証人制度に困ります。田窪
保証人制度は現在かなり改善されているようですよ。ウェイ
先生が授業で日本語と英語を使えば,日本人学生には英語の,留学生には日本語の勉強になると思います。それから卒業証書は,留学生用には1枚に日本語と英語両方書いてあるといいです。日本語だけだと,外国では日本語が分かりませんから,就職のときなどとても困ると思います。ティーレ
日本人はよくほかの人の世話をします。協力的です。ドイツやイギリスではもっと一人一人が別々でした。リン
私は最初奨学金がなかったので思うのですが,経済面のことはとても勉強に影響します。奨学金は大切です。そして本当に勉強したい人に与えてほしいと思います。今私は奨学金があって好きな勉強ができて,幸せな毎日です。本当ですよ(笑)。それから,留学生の中には先生とうまく交流できずに悩んでいる人もいます。田窪
先生とうまくいかないのは大きな問題ですね。そういう勉強面でのカウンセリングのシステムも必要かもしれませんね。アブドラ
英語版のコンピューターソフトがあるといいです。1年半くらいは,日本語で苦労しますから。それから,いろいろな手続きや研究の決まりを,ちゃんとルールにして書いてください。「上司と相談します」とか,人によって答えが違ったり,はっきりしないと困ります。田窪
今日は,どうもありがとうございました。これからもがんばってください。
(座談会は平成11年3月に行われました。)
田 窪 行 則 (たくぼ ゆきのり) 文学部人間科学科教授。専門は言語学。
リン・ホワ (林 女華) 中華人民共和国出身。文学研究科修士課程1年。専門は言語学。
ディレク・ティーレ (Dirk Thiele) ドイツ出身。工学研究科博士課程2年。専門は知能機械工学。
ティン・ティン・ウェイ (Tint Tint Wai) ミャンマー出身。理学研究科修士課程2年。専門は多体系基礎論(物理)。
キム・ユーキョン (金 宥日景) 大韓民国出身。経済学研究科修士課程2年。専門は経済工学。
バッセム・アブドラ (Basem Abdullah) シリア出身。工学研究科博士課程1年。専門は土木工学。
ダニエル・サハデ (Daniel Antonio Sahade) アルゼンチン出身。総合理工学研究科博士課程2年。専門は化学。