しのびよる身近な毒
澤 田 康 文 著
生きていくために人は食べ物,飲み物をはじめいろいろなものを口にしなければならない。タンパク質,炭水化物,脂肪,アミノ酸,ブドウ糖,ビタミン,必須金属などの栄養物質,調節物質が体の中に入っていく。
さらに楽しく生活したり,ストレスを発散するために,人によってはお酒,タバコ,お茶,コーヒーやジュースなどの嗜好品,健康食品などを口にすることもある。アルコール,ニコチン,カフェイン,・・・・が体の中に入っていく。また大概の人は体の調子が悪くなったら,病院へ行って薬をもらうこともあるだろうし,町の薬局でそれを買って使うこともあるだろう。またシンナー,コカインなどの薬物を不法に使用している人もいる。化学的に合成された異物が体の中に入っていく。これらのケースでは,食べ物,飲み物,嗜好品などの成分や薬物・毒物が色々なルートで体に入ること,あるいは体に入るかもしれないことを人はよく認識して摂取している。
しかし,場合によっては人が意識していない中でいつの間にか外来の物質が体内に侵入することもある。これによって不測の事態が起こった典型的な例が化学兵器による殺戮,農薬や微量の環境汚染物質による公害や植物毒・動物毒・微生物毒による中毒事件である。
外来の物質は人の本意,不本意に関わらず,体にとって良いものであっても,悪いものであっても,毎日欠かさずとにかく体の中に一気にあるいはじわりじわりと入ってくる。それも例え人が何もしないで部屋の中にじっと座っていてもである。
一体,生体にとっての毒物や異物は体の中にどこからどの様なメカニズムで入って来るのであろうか?またどの様な症状が表れ,どの様なメカニズムで特定の臓器・組織で毒作用が起こるのであろうか?
本書において,まず化学兵器,公害,薬害,有機化学物質の威力,すさまじさ,悲惨さについて,さらに極ありふれた身の回りの幾つかの毒の実体について分かりやすく解説した。
毒とは何か?毒と生体との相互作用のメカニズムは?・・・・毒の全てを知る。21世紀に向けて,我々は「毒の達人」になって初めて毒と対峙できる道が開けるかもしれない。
(羊土社,1998年12月刊,175頁)
(さわだ やすふみ 薬学研究科教授)