21世紀に向けたビジョン
5月18日(火),九大の新キャンパスを中心とした学術研究都市づくりを協議するために関係する産学官が参加した「九州大学学術研究都市推進協議会」(会長:大野茂 九州・山口経済連合会会長,代表委員:大野会長,麻生福岡県知事,山崎福岡市長,杉岡九州大学総長)の総会が開かれ,学術研究都市構想検討委員会(委員長:伊藤滋 慶応義塾大学教授)の中間報告が発表されました。
21世紀文明の創造
九州大学学術研究都市とは,「開かれた研究大学の構築」と「COE(センター・オブ・エクセレンス)の形成」を目指して改革を進めつつある九州大学の新キャンパスを中心に,福岡市から唐津市に至る3市3町一体のあり方を構想したものです。その具体的内容についての第一専門委員会(委員長:矢田九大副学長)と第二専門委員会(委員長:黒川東京工業大学教授)の検討結果を,構想検討委員会がとりまとめたのが今回の中間報告です。九州大学学術研究都市(正式名称は未定)のビジョンは,21世紀文明の創造。その理念として,次の4つが挙げられています。
- ◎共生社会の実現(より豊かに生きるための学問を創造し,実践する場)
- ◎新産業の創出(暮らしと社会に貢献する多様な産業・技術を創造する場)
- ◎創造性の発揮(人類と地球・自然が所有する潜在的な創造力を引き出し活用する場)
- ◎アジア交流の推進(アジアを軸とした知的交流の中から21世紀文明を探求し合う場)
そしてこのビジョン実現のために,「知の交流・創造活動を促進するソフトウェア(仕組み)のデザイン」と「知・住・悠の舞台となる快適空間のデザイン」の二つが不可欠であるとしています。
知の交流・創造活動の促進
このコンセプト実現のための基本戦略として,「起業家育成」や「世界的な情報発信や人間交流のしかけづくり」とともに,「リエゾンプラットフォームの整備」が謳われています。「リエゾンプラットフォーム」とは,共同研究のコーディネートや助成金の獲得,ライセンスの管理などを行う仕組みのことです。
また,このコンセプトの具体的イメージを検討する舞台ともなる,九州大学の知的財産を活用した産官学連携によるモデルプロジェクト群として,次のようなものが挙げられています。
- (1) システムLSI開発プロジェクト
- (2) バイオ&アグリ研究開発プロジェクト
- (3) ケミカル&バイオセンサー研究開発プロジェクト
- (4) 人間居住研究・研修プロジェクト
- (5) 九州アジア政策研究交流プロジェクト
知・住・悠の舞台となる快適空間
学術研究都市のビジョン実現に必要な快適空間の整備を行うに当たり,その核となるプロジェクト群として,次のようなものが挙げられています。
- (1) 連携・交流ゾーンとタウン・オン・キャンパス
- (2) 田園ゾーンの土地利用の誘導・規制
- (3) 分散型地域核(通称「ほたる」)の形成
- (4) 地域交通システムの整備
- (5) 広域連携を視野に入れた整備
連携・交流ゾーンとタウン・オン・キャンパス
連携・交流ゾーンは新キャンパスの西側に展開する地域で,九州大学のコンセプトを体現するとともに学術研究都市の拠点空間にも位置付けられる,大学と地域社会との接点となるゾーンです。大学のマネジメント,産学交流,国際交流などの機能を有し,具体的に大学本部,研究博物館,生涯学習施設,産学交流の窓口,学生寮や留学生会館などの設置が考えられ,ゾーンの中心部に「まち(タウン)」を形成しています。分散型地域核(通称「ほたる」)の形成
「ほたる」とは,居住・研究開発やレクリエーション・リゾートの機能を目的に,小規模で良質な環境共生型の計画的開発が行われる地域で,学術研究都市内に分散しています。小規模に分散させることで,自然環境への負荷の低減,地域デザインとの整合性の確保,多様な需要への対応などの効果が期待されています。広域連携を視野に入れた整備
糸島半島域は,地理的に福岡市都心部と唐津・浜玉地域の中間に位置しており,それぞれの地域の特色を生かした整備が考えられています。つまり九大を核とした学術研究拠点としての糸島半島域,都市型ライフスタイル提供の場としての福岡都心部,そして自然を生かしたリゾートやゆとりある住環境の整備が可能な唐津・浜玉地域が,それぞれ補完し連携するという構想です。
今後の展開
中間報告には,これらのモデルプロジェクトを先行的に立ち上げ,その過程で課題を抽出して,「知の交流・創造活動を促進するソフトウェア(仕組み)のデザイン」と「知・住・悠の舞台となる快適空間のデザイン」というコンセプト実現のための基本戦略について,検討を重ねることが謳われています。また,推進協議会は,今後,学術研究都市の整備に向けた構想の策定,その実現の可能性の評価,実施方策の検討並びにその実施に取り組むこととしており,その推進に際しては,推進協議会を核とした産学官共通のプラットフォームとなる「整備推進機構」の設立を視野に入れながら,段階的かつ柔軟に組織を改変しつつ対応し,2000年度をめどに最終報告をまとめたいとしています。