The Unity of Plato's Sophist
- Between the Sophist and the Philosopher -

Noburu Notomi 著


 西洋に「哲学」を確立したプラトンの代表作の一つ『ソピステース』篇は,これまで様々な哲学的アプローチの対象となってきたが,その全体像は謎のままであった。本書は『ソピステース』篇が全体として一体何を哲学的問題として論じているのか?という素朴な問を掘り下げることで,「ソフィストとは何か?」の探究を通じて「哲学者とは何か?」を根本的に問い直し,それを示す本篇の哲学的意味を明らかにする。従来の研究を一新する試みとして評価され,ケンブリッジ大学出版局の「ケンブリッジ古典叢書」の1冊に加えられた。

 プラトンは一連の対話篇においてソフィストたち(紀元前5〜4世紀ギリシアで活躍した職業知識人・教師・弁論家)を執拗に批判することで,ソクラテスに体現された「哲学者」の理念を逆照射しようとしてきた。『ソピステース』篇では,この問題がよりラディカルな次元で捉え直され,ソフィストを「知者の現れを作り成す者」と定義する探究者が必然的に自らの言語活動への反省的吟味を強いられる様が描かれる。ソフィスト批判とは,実は「内なるソフィスト」との対決として哲学が初めて成立する過程を意味している。哲学者たらんとする私たちは,探究においてその都度「私/私たちにそう思われる=現れる」ことを,一人よがりの真理としてではなく,更に吟味に付し「真/偽」を判別していくものとして捉えていかなくてはならない。このような探究への態度と,真偽分別のための精確な言語手段(論理)の追求が,私たちの内に真の「哲学者」を実現するのである。

 本書が,明治以来西洋の哲学や学問を移入してきた日本から西洋文明の根幹を問い直す試みとして,東から西への一つのメッセージとなることを願っている。

(Cambridge University Press, April 1999, pp. 346+xxii)

納 富 信 留
(のうとみ のぶる 文学部助教授)