新キャンパス移転シミュレーションについて

移転シミュレーション検討プロジェクトチーム長
押 川 元 重


 「九大広報」第6号でお伝えした新キャンパスのゾーニング及び移転順序が,7月27日(火)開催の将来計画小委員会で基本決定されました。今回は,移転シミュレーション検討プロジェクトチームの押川教授に,シミュレーションについて解説をお願いしました。


検討に当たって
 新キャンパス計画専門委員会は,平成11年3月に新キャンパスへの移転順序案を仮決定するとともに,その実行可能性を確認する作業を行うために,移転シミュレーション検討プロジェクトチームを設けました。

 プロジェクトチームでは,まず検討作業の実施方針を定めましたが,シミュレーション作業を行うためには,仮決定案よりもさらに詳しい年次別移転順序案が必要だということになりました。そこで仮決定案を基本にしながら3つの年次別移転順序案をつくり,それらを比較検討することにしました。移転にともなう教育研究活動のデメリットをできるだけ少なくすることを重視しながら,移転財源との関係で六本松地区の売却を遅らせることが困難であるという事情をも考慮して,比較検討を行いました。

シュミレーションの概略
 その結果,教育研究活動を正常に続けていくためには,移転開始からしばらくの期間は六本松地区の利用を継続することが必要であること,研究室の2回移転は研究に大きなデメリットをもたらすだけでなく移転・改修費用が増加することなどが明らかになり,それらを考慮してシミュレーションの対象とする年次別移転順序案を決めました。その案の概略は次のとおりです。

1) 元岡地区への移転は工学系から開始し(4年間),移転2年次に工学部の全学共通教育を元岡地区へ移転する。
2) 移転4年次から理学系を元岡地区へ移転する(2年間)。
3) 移転4年次には理学部の全学共通教育を元岡地区へ移転し,文系学部,医・歯・薬学部,農学部の全学共通教育を箱崎地区へ暫定移転する。
4) 移転5年次に比較社会文化研究科と言語文化部を元岡地区へ移転する。
5) 移転6年次から箱崎地区文系を元岡地区へ移転する(2年間)。
6) 移転6年次には文系学部と医・歯・薬学部の全学共通教育を元岡地区へ移転する。
7) 移転8年次から農学系を元岡地区へ移転する(2年間)。
8) 移転8年次に農学部の全学共通教育を元岡地区へ移転する。
9) 移転10年次にその他の組織を元岡地区に移転して,移転を完了する。

 以上のような年次別移転順序案にもとづいてシミュレーションの作業を開始しました。作業はさまざまな要因について,現状の把握,移転にともなう問題点の把握,それらの問題点の解決の方策の検討という筋道で進めました。検討した事項や検討の結果の概略は次のとおりです。

a) まず,移転年次ごとの学生と教職員の移転対象者数及び各地区人口の概算を行いました。
b) 年次別移転順序案にもとづいて移転2年次から4年次までの全学共通教育は六本松地区と元岡地区で,それ以後9年次までは元岡地区と箱崎地区に分かれて実施することになれば,教官が地区間を移動して授業を担当することが必要になります。そこで,科目区分及び学部ごとの授業開講数と部局ごとの授業担当数の現状をもとにして,部局ごとの教官移動の量の予測を行いました。これにはそれぞれの科目の実施地区ごとの非常勤講師の必要数も含まれています。
また,複数の学部の学生を対象にして開講されている個別教養科目や未修外国語について移転期間中の学生の選択履修の幅が狭まる可能性があることや,教室,実験室,情報処理施設,LL教室,健康・スポーツ科学実習用施設について,元岡地区での整備及び暫定移転に対応した箱崎地区での整備が必要であることを示しました。
c) 複数の教育組織が学部専攻教育や大学院教育を共同で行っている授業について,部局の移転時期が異なれば,その実施が困難になることが予想されます。そうした問題の発生が予想されるケースを具体的に示しました。
d) 教育研究にとって図書の利用は重要ですので,部局等の移転と図書の移動はできるだけ一致することが望ましいといえます。元岡地区における理系図書館と文系図書館の建設と,図書の移動についてシミュレーションしました。
e) 本学にはさまざまな共同利用施設がありますが,それぞれの施設の望ましい移転時期や移転期間中のサービスのあり方が問題になります。特に移転期間中に複数の地区にサービスの窓口を設けることが必要になる施設がありますので,施設ごとの利用状況や移転に伴う問題点を整理しました。
f) 豊かなキャンパス生活にとって,福利厚生施設等の整備と円滑な運営が重要です。しかも,元岡地区における移転早期のそうした施設の整備状況は新キャンパスの全体イメージに関わりますし,さらに教育研究活動にも影響します。課外活動施設,食堂・売店等,学生宿舎,保健室,学生相談室,就職情報室,留学生のための日本語教育と生活支援の施設等について,元岡地区での施設整備と暫定移転期間の箱崎地区での対応を検討しました。
h) 大学のあり方が変化していくなかで新しい事務業務の需要が生まれる一方で,行政組織の減量化・効率化の必要も生まれ,さらに研究院制度の導入による組織再編にともなう事務組織の改革の必要も起こっています。それに加えて,キャンパス移転期間中は同じ部局が複数の地区に分散したり,複数の部局を担当する事務組織の業務が分散することも起こりますので,移転スケジュールに対応した事務体制の構築が必要になります。そのためには,移転開始以前に新しい事務体制への移行または移行準備の完了が必要になります。また,移転期間中に事務業務が分散する場合には,分室を置くなどの措置も必要になります。
i) 移転4年次に文系学部,医・歯・薬学部,農学部の全学共通教育が箱崎地区に暫定移転するにともなって,教室,実験室,情報処理教室,LL教室の箱崎地区での確保と整備が必要になります。
j) 移転期間中の学内会議の開催運営は現在よりも一層困難になると思われます。それは全学会議だけではなく,複数地区に分散することになる部局の会議についてもいえることです。それらをいくらかでも緩和するためには,テレビ会議システムの一部導入などの検討が必要になってきます。
k) 全学共通教育や学内会議のために,教官の地区間移動が大量に発生します。これに対しては,元岡地区周辺の交通ネットワーク整備を急ぐことが必要です。さらに移転期間中の大学独自の専用バス運行などを検討していくことが必要になります。

全体ゾーニング図

結   論
 シミュレーションの対象とした年次別移転順序案は,移転開始後10年間で移転を完了することを前提とした仮決定案にもとづきつつ,共通施設を早期に整備し,六本松地区の部局を直接元岡地区に移転するものになっています。そのため施設整備時期がいっそう前倒しになり,移転開始前後の5年間に施設整備の大きな山ができています。長期間にまたがる実際の移転は,国の財政や政策の動向に影響されがちであり,移転方針の細部の決定や移転実行体制の整備にも依存して,ここで検討した年次別移転順序案とは違った形で進行することもありうると考えられます。しかも,今回の検討は最初のシミュレーションであり,引き続き細部にわたっての検討及び具体的な状況の進行に合わせた見直し再検討も必要になってくると思われます。

 こうしたことを前提としながら,プロジェクトチームの検討の結果として,いくつかの課題は残るものの,教育研究活動の継続を大きく危うくし移転実行が不可能になるといえるほどの決定的な障害は見られないという結論を得ましたので,そのことを6月14日に新キャンパス計画専門委員会に報告しました。

(おしかわ もとしげ)
大学教育研究センター教授


移転順序

(計画床面積:万m2

時   期 第1ステージ 第2ステージ 第3ステージ
新キャンパスへの移転 工学系1    (10.5)
理系附属図書館,情報館 (2.0)
全学共通/工,その他 (4.5)
工学系2    (3.5)
理学系     (5.5)
文系,中央図書館 (8.5)
全学共通教育/理,文,医,歯,薬,その他 (3.5)
農学系     (5.0)
全学共通教育/農,その他 (7.0)
六本松から箱崎への移転   全学共通教育/文,農,医,歯,薬  
計画床面積 17.0 21.0 12.0

(注1)  全学共通教育の一部が元岡へ直接移転し,他の一部が箱崎に一旦移転したのち,元岡への再移転を行う。
(注2)  第Tステージ第1陣の移転開始から第Vステージの移転終了までを,概ね10年程度と想定している。
(注3)  施設は棟毎に建設されるため,移転は逐次行われる。この移転順序案は部局移転順序に関するおおまかな方針を示すものであり,施設によっては時期が前後する場合があり得る。実験施設等については,所属部局の移転を考慮して個々に検討する。
(注4)  全学共通/その他には以下のような施設を想定している。それぞれに関わる機能の移動については,別途検討する。
   ・第Tステージ:大学会館・講堂,交流施設,学生宿舎,特別高圧変電所 等
   ・第Uステージ:体育館,留学生センター,学生宿舎 等
   ・第Vステージ:農場施設,事務局庁舎,構想施設,学生宿舎 等