「寄生虫学の展開と医の文化」展示顛末記

医学系研究科教授 多 田   功


 今回の展示では寄生虫学や寄生虫病の過去・現在・未来という流れと,九大医学部を中心とする研究の流れを紹介した。「医の文化」の部分は主として大学院比較社会文化研究科のミヒェル教授に分担していただいた。

 会期18日間に,約7,500人の方々が入場され,海外の方々を含め,小学生から90歳代まで多くの方々が熱心に見てくださった。観客の中にはダイエットしたいがどうすればこの寄生虫は入手できるか?という方もいた。アニサキス幼虫についてはかなりの主婦はよく知っていた。子供たちは寄生虫を見て,想像を絶するものを見たという感が深かったらしく,「宇宙人みたい!」「スゲー!」「やばい!」「キモチワルイ!」などの感想が続出した。顕微鏡を使って,原虫なども見せたかったが,標本や顕微鏡を痛める可能性が高く断念した。

 寄生虫病のコーナーではリアルな症例と病変を展示した。マラリア死の脳にショックを受けている顔は多かった。気軽に思っていた寄生虫,魚とか昆虫がこんなに危険であるとは!と多くの人が感じたようだ。以前インドに行った青年はこう感想を述べた。蚊に刺されまくったが,あれは「空飛ぶ注射器だったのですね!」と。寄生虫は過去のものと思っていた方も,寄生虫が猛威を振るっている世界地図上に赤く塗られた地域を見て,現実への認識を新たにされたようだ。ある浪人氏はノートにこう書き残した「やはり医学部を目指そう!」と。感染症や寄生虫症が環境問題でもあるという認識を市民の方々に持っていただけたようだ。

 「九大における寄生虫学の流れ」では宮入慶之助(ミヤイリガイの発見による住血吸虫の生活史解明),これに心酔する後継者,大平得三(糞線虫の自家感染説),そして大平にはぐくまれた宮崎一郎(肺吸虫)という3人の教授の軸を描写した。多くの先輩たちの足跡に触れ,「九大の学生であることを誇らしく思った」という医学部生たちのメモも残されていた。

 大学がその研究成果を市民に公開するという姿勢は大変好評で,大学の独立法人化が懸案である現在,このことは重要である。

(ただ いさお)

インターネットミュージアム「寄生虫学の展開と医の文化」