IPS電波宇宙予報サービスセンター (オーストラリア)

理学研究科教授 湯 元 清 文


 オーストラリア政府のサービス研究機関のひとつであるIPS電波宇宙予報サービスセンター (IPS)はシドニーに本部があり,電波技術を駆使した太陽活動,地球の磁場変動や電離層擾 乱(じょうらん)の観測・解析から,電波通信障害となる太陽地球環境変動や擾乱の予測と予報 に関わる“宇宙天気”の情報提供を行っている。

太陽電波観測所Culgoora(カルグーラ)

 このために,オーストラリア国内にある多くの附属の観測施設では,太陽活動の長期監視,地 球の磁場変動と電離層擾乱の観測が定常的に実施され,得られたデータの解析に基づく“宇宙天 気”予報のニュースを多くの地球物理学者,一般研究者,さらに,民間の大陸内間の無線使用者, 人工衛星運用機関,発電施設,パイプライン管理所等に提供している。

 これらの“宇宙天気”情報は,人類の活動が地球周りの宇宙空間に拡がりつつある昨今,例え ば,太陽面爆発にともなう太陽宇宙線(高エネルギー粒子)が実用通信衛星の制御不能などのト ラブルや電波障害による経済的な打撃を与えるなど,身近な問題になりつつある。一方,この“ 宇宙天気”に関する教育・研究は,九州大学大学院理学研究科地球惑星科専攻の太陽地球系物理 学や宇宙地球電磁気学の分野とも深く関係している。太陽惑星科学講座の研究の対象とする領域 は,太陽風が支配する太陽圏から地球磁場が支配する電磁気圏までを含む広大な宙空領域である。

 1990年から1997年の間に実施された太陽地球系エネルギー(STEP)国際協力研究事業の大きな 課題の1つであった組織的で地球規模の地上多点観測研究の中で,九州大学は西太平洋域の北半 球から南半球を結ぶ210度磁気子午線沿いと磁気赤道域での宙空電磁気環境変動の観測研究プロ ジェクトを推進してきた。この210度磁気子午線に沿った南半球の中で,日本の磁気共役点に位 置するオーストラリアのIPS電波宇宙予報サービスセンターでは,惑星間空間電波シンチレーシ ョンや電離層擾乱観測を永年やってきている。オーストラリア(ウェイパ,バーズビル,アデ レード)での地磁気共同観測は,永年の親交があるニューキャッスル大学の協力により1990年の 夏から開始された。地磁気擾乱の経度効果を調べるために,210度磁気子午線から離れたIPS電波 宇宙予報サービスセンター附属のリーモンス観測所との共同観測研究計画について綿密な打ち合 わせが行われ,科学研究費(国際学術研究)による共同地磁気観測が1991年8月から開始された。 その後,観測機器の感度検定や保守,研究打ち合わせ等のために,毎年日本の研究者を現地に派 遣したり,オーストラリア研究者が来日するなどの国際交流が行われている。

 1993年7月にオーストラリアのニューキャッスル大学で開催された第2回南太平洋域STEP会議 において,日本で観測された低緯度オーロラの成果を報告した結果,低緯度オーロラの電磁圏環 境における重要性から,日本とオーストラリアでの低緯度オーロラの磁気共役観測についての具 体的な計画がIPS電波宇宙予報サービスセンターで詰められた。この計画に沿って,1994年8月に キャンベラ郊外のストムロ山に日本側から3名の研究者とIPS側の研究者が集合し,観測装置の設 置並びに観測研究のための打ち合わせの後,地磁気変動,大気電場,全天カメラ,分光器による 総合観測が開始された。

D. Cole所長(中央)から説明を受ける

 日本の磁気共役点に位置するオーストラリアとの共同研究を進めることは宙空環境変動を研究 する上で重要であり,交流協定を結びこの地域と積極的に共同研究することがこの研究を飛躍的 に発展させるものとの判断に立ち,オーストラリアIPS電波宇宙予報サービスセンターと九州大学 理学部間で新たな協定書の締結の準備が早急になされた。そこで,協定書に関する打ち合わせと 現地観測所の状況視察のために,1996年11月に九州大学本部主計課,並びに理学部等事務部と再 度,オーストラリアIPS電波宇宙予報サービスセンターを訪問し,新たな協定書作成のための準備 を行い,1997年3月に学術協定が締結されるに至った。

 人物交流,共同観測などの実施に当たって九州大学側からは,文部省科学研究費補助金による 国際学術研究,日本学術振興会事業等による研究者や学生の交流,派遣等を実施する。また,オ ーストラリアIPS電波宇宙予報サービスセンター側からは,オーストラリア国内で共同観測を実施 するに当たり,IPS附属の観測施設や人的な便宜供与が得られることになっている。また,オース トラリアからの日本への派遣,人物交流はオーストラリア政府の研究費によってなされる。

 現在,“宇宙天気”の分野で学問的に問題となっている日本付近で発生する低緯度オーロラは, これまで想像だにしなかった太陽風擾乱エネルギーの地球磁気圏深部へのエネルギー流入を示唆 しており,日―豪磁気共役点での総合観測を実施することによって,宙空環境変動の研究で重要 な結果を得ることが期待されている。

 オーストラリアIPS電波宇宙予報サービスセンターとの協定締結により,共同観測研究を円滑 に行うことが可能になった宙空環境変動を長期的かつ直接的に監視し,それらのデータを解析す ることによって,そのメカニズムの解明が可能になるものと期待される。また,大学院生等の海 外における野外実習や人物交流により,21世紀を見据えたグローバルな環境観測技術と宇宙天気 の予測に関する高度な研究能力をそなえた大学院生の育成に,大きく貢献することが期待されて いる。

(ゆもと きよふみ)