再任に当たって
COE(センター・オブ・エクセレンス)としての「強い九州大学」の構築
九州大学総長 杉 岡 洋 一
去る9月に行われました総長選挙の結果再選され,本年11月7日から,引き続き2期総長を務め させていただくことを大変光栄に存じますとともに,その重責を担うことに,過去の4年間もそう でありましたように,全身全霊を傾注して事に当たるべく意を新たにいたしております。
今後の2年間は,特に我が国の高等教育の最大の危機的状況下での大学運営となり,国立大学と しての重大な局面を迎えることも想定されます。世界の教育・研究拠点の形成に向けこの危機を好 機と捉えて,全学の教職員の方々の御理解と,一層活力ある大学作りに向けた御尽力・御支援を賜 ることをお願いする次第です。4年前の総長就任時には,如何なる評価にも耐えうる「強い九州大学」の構築を目指すと申し上 げましたが,矢田・柴田両副学長の献身的な御努力と,各部局長,評議員,総長補佐をはじめとし た全教官,事務局長以下の事務職員の御理解と御協力により,本学の三大プロジェクトを順調に進 めることができました。
1.大学改革
平成7年(1995年)に評議会決定された「九州大学の改革の大綱案」の中で提起された大学院重 点化も,3研究科を残して全て実現され,残りの3研究科の重点化と研究院制度の導入は,平成12 年度概算で達成される予定であります。旧帝大七大学中スタートが遅れ,私が最も危惧しておりま した全学重点化も,東大,京大に次いで完成されることになります。その他の主な改革もほとんど この4年間で実現され,「大綱案」の多くは消化されたことになります。しかし,大学は常に未知 への挑戦を行い最良のものを求めて変革していくものである以上,大学改革は革命の如くある時期 に突然成立し終結するものでなく,今後も新たな目標に向け歩みを進めていくべきで,それが「強 い九州大学」の構築には欠くことのできないものと考えます。さて,危機的状況を好機と捉えて一層活力ある大学作りを,と申しました点に触れさせていただ きます。その危機的状況とは,すでに御存知のように,国立大学の設置形態までが政府の行財政改 革の論議の俎上にのぼり,論点が,民営化から独立行政法人(以下「独法」と略す)化に収斂(し ゅうれん)し,平成15年までに結論を得るとされたことであります。国大協は反対声明を出すと同 時に,第一常置委員会で「独法」の通則法をもとに検討を開始し,その中間報告を9月13日に発表 いたしました。9月20日には,今年の6月まで検討を控える姿勢をとっていた文部省が,通則法に 対する特例措置などでの対応策を検討の材料として国立大学学長会議に提示しました。その後,各 地域の学長・事務局長会議に討議の場を移すなど,「独法」化はにわかに現実味を帯びてきました。 我が国の高等教育にとって,ひいては国の将来を左右しかねない,この重要な問題を即断に近い形 で処理する姿勢が,危機感を一層募らせることになっています。
「独法」化の根拠は「国の行政組織等の減量・効率化」にあるわけで,国立大学の独法化は,行 財政改革と国家公務員25%削減案の数合わせ的発想としか言いようがありません。教育・研究を効 率で量ることは不可能でありますし,将来の国の文化,知の創造と蓄積を行う分野にとって,「独 法」は不適当と思われる設置形態であります。通則法のもとでの国立大学の「独法」化が強行され れば,我が国の教育と研究,中でも基礎研究は致命的打撃を被り,高等教育は崩壊すると思われま す。
通則法では,効率化を図る目的で企画と執行を分離することが謳われており,主務大臣が3〜5 年の中期目標を設定し,法人がそれに合わせた中期計画を作成,主務大臣の許可を得ることになり ます。法人は各事業年度及び中期目標期間における業務実績について,主務大臣,総務庁のもとに 置かれた評価委員会の評価を受けるとされ,その結果によって法人業務の継続の必要性や,組織の あり方を検討して,所要の措置,例えば民営化が行われることになります。また,法人の長及び監 事は主務大臣が決定することになっておりますが,高等教育における教育・研究の企画と執行は一 元的であるべきであります。通則法のどれをとっても,大学の自治・学問の自由が著しく妨げられ ることは,火を見るよりも明らかであります。
少なくとも,設置形態の論議の前提として,我が国の将来を決する高等教育のあるべき姿や,高 等教育への国家財政支出が他の先進国に比して国内総生産比で約半分にすぎない状況の改善などの 論議が行われるべきであります。その上,教育・研究の現場にある国大協や教官との討議の場もな いまま,政府と行政官僚との合意によって一方的にこの重大な方針が決定されるとすれば,将来に 大きな禍根を残すこととなり,極めて危険であると断ぜざるを得ません。
さて,このような高等教育の危機的状況にあっても,世論を巻き込んだ論争もなく,国の将来を 決するほど重大な問題の割に関心を呼ばないのは,異常な状況であります。これは,最近の経済の 破綻と効率至上主義の浸透によるものであると同時に,過去我々が国民に対して国立大学の貢献度, すなわちその存在意義を十分に説明する努力を怠ってきたことが原因と思われ,大いに反省せざる を得ません。国立大学が現状維持で良いはずもなく,現在以上に,世界と伍して研究成果を挙げる 方策を大学自らが提言実行していくことが,高等教育の崩壊を未然に防ぐことになると信じます。 また大学の広報に力を注ぐことが大切で,本学が昨年から刊行を始めた「九大広報」や英文の広報 誌「KYUDAI News」を,今後も充実させていく必要があります。
この危機を乗り切り,これを一層の飛躍の機会,すなわち好機と捉えるためには,教職員が危機 感を共有し,世間の求める国立大学の体質改善を真摯に受け止め,「大学改革の大綱案」を一歩進 めた新たな将来計画を策定し,実行に移すことが求められます。そこで各部局にお願いしたことは, 各部局の長期展望に立った中期目標と計画を,教育・研究・社会連携の各分野で策定していただく ことと,この成否に直結し全ての基本でもある教官選考と人事についてお考えを纏めて,提出して いただくことであります。同時に,全学を挙げて運営・教育・研究面での中・長期計画策定プロジ ェクトチームを編成することを,将来計画小委員会でお認めいただきました。
これらの全学的取り組みを進め,結実させることが,「強い九州大学」の構築につながると考え ますし,他大学と同じ歩みに満足していては,一歩擢(ぬき)んでることは不可能であります。こ れら一連のことは「独法」化とは無関係でありますし,大学審議会の答申で示された運営諮問会議 の設置は,法令でその実行が求められ,また学位授与機構に置かれる評価機関の設置も決定され, その評価により資源配分がなされることになっております。すなわち,否応なしに国立大学間での 厳しい競争環境にさらされるわけで,生き残りを賭けた教育・研究・社会連携での成果が求められ ます。
この点,本学のP&PやC&Cなど,他大学にない全学的な教官と学生に対する研究助成は極め て有意義であります。また今後の設置形態の如何を問わず,大学独自の研究費獲得の自助努力が求 められますので,「財団法人九州大学後援会(仮称)」の設立が急務であり,その機能と重要性を 認識いただき,教職員による募金の目標額達成に,御理解と御協力をお願いする次第です。特に, この財団の恩恵を最も受けられる若い教官の御理解と御尽力に期待しております。
2.キャンパス統合移転
本学の第2のプロジェクトは,1991年10月,第18代高橋学長によって評議会決定された,箱崎・ 六本松キャンパスと原町農場の福岡市西区元岡地区275haへの統合移転計画であります。移転用地 につきましては,第19代和田総長から福岡市長に,造成後に再取得する条件で用地の先行取得が公 式に依頼され,土地開発公社により1998年10月にその全てが終了。そのうち当面造成を要しない約 44ha(総面積の約5分の1)が,国有地として既に再取得されております。用地内の埋蔵文化財の 取り扱いの方針は,1997年7月に総長案を提示し決定され,昨年5月には造成基本計画(社会に開 かれたキャンパスに向けた修正案)が評議会で了承されました。これを受けて,土地開発公社が造 成に向けた基本設計,実施設計に取りかかり,開発協議を経て,今年度中の造成着工が予定されて おります。この作業と平行して,キャンパスのマスタープランを担当する建設コンサルタントの選定作業が 公募型プロポーザル方式により開始され,今年11月にはその選定を終了する予定で,移転計画はす べて順調に進んでおります。
新キャンパスのCOE形成に向けた構想は,将来計画小委員会の下に置かれた新キャンパス計画 専門委員会や各ワーキンググループと施設部,企画調査室等の作業により,未来型キャンパスの要 件が検討されており,そのキープランが将来計画小委員会で昨年9月に承認されました。また今年 の7月には,アカデミックゾーン内のゾーニングと移転順序が決定され,ソフト面での計画も極め て順調に進められております。
さらに,移転した本学を核として,福岡市から唐津市に至る地域を理想的な学術研究都市に構築 すべく,九州・山口経済連合会を中心とした経済界,福岡県,福岡市と移転地関連の市町村,佐賀 県,政府出先機関,住宅都市整備公団(現都市基盤整備公団)等と本学とにより,昨年5月「九州 大学学術研究都市推進協議会」が発足しました。同協議会の専門委員会による1年間の精力的な検 討結果が本年5月に報告され,2年目の具体案の作成が詰められております。
私は,この厖大な移転事業は,全学の教職員の理解と参加のもと,本学の英知の全てを結集して 理想的な計画を策定し実行に移すといった,全学の総意で進められるべきものと考え,就任当初か ら広く情報を共有することを提案してまいりました。すなわち将来計画小委員会はもとより,評議 会やその他のあらゆる機会を捉えて,例えば,ホームページでのQ&A,イメージ模型の展示,シ ンポジウム,「九大広報」などで可能な限り情報開示に努めてきました。また,移転事業は学内の みならず,これに関連し御協力いただいている学外の関係者との信頼関係が不動のものでなくては ならず,また互いに社会的責任を負っているものと考えます。8年前に評議会決定されたこの移転 事業は,いくつもの困難な問題を一つ一つ解決し,学内外の信頼を維持しながら必要なステップを 踏み,全体から見て順調な歩みで造成の段階に至ったと自負しております。
しかし,これだけ巨大で未曾有の移転事業であるため,関心を持つ興味本位の人々が,無責任な 行動をとることも皆無ではありませんし,事実それに類した行為も見られました。幸いにして学内 外の当事者の良識と信頼関係に守られてきましたが,不幸にして本学が社会的責任を問われるよう な事態が万が一生じることになれば,大学の存亡の危機をもたらすことになりかねません。
また,国立大学の設置形態の論議の結果によっては,移転計画に影響がでることを案じる方もお られるかもしれませんが,この移転事業は,8年前から国家的プロジェクトとして推進されてきた ものであり,文部省をはじめ,異口同音に問題のないことが表明され,確認されているものであり ます。
移転後の本学の一層の飛躍を期する上でも,移転前の本学の活力を最大限に上げておくことが必 須であり,私の役割の一つであることを自覚しております。そのために,講義棟や研究棟の新設を 含めた研究・教育環境の整備,図書館機能の充実,情報教育への重点整備,ファカルティクラブの 新設,西新地区土地利用計画の検討,学生福利施設や課外活動施設の整備など,総長裁量経費でで きる限りの充実を図ってまいったわけです。また,韓国国際交流財団による,本学を韓国研究の拠 点と見倣した研究支援が決まったのに伴い,本学は自ら韓国研究センターを新設することにいたし ました。
その他ソフト面では,P&PやC&C,全学情報化推進体制の整備,全学共通教育カリキュラム の見直し,総合選択履修方式の導入,「社会と学問」など新カリキュラム設定,名誉教授による少 人数ゼミの開講,JTW(英語による短期留学コース)のカリキュラムと日本語教育の整備,AO 方式選抜とアドミッションセンターの設置,社会連携推進機構の設立,技術移転推進室の設置,T LO設立,全学同窓会連合会の設立,研究者総覧のホームページ開設,自己点検評価委員会の再編, 教官の研究教育活動のデーターベース化とインターネット上での公開などが実施されてきました。
今後も,移転をひかえた本学の活力を最大限にすべく,努めてまいりたいと考えております。
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3.病院の再開発
第3のプロジェクトである医学部附属病院再開発は,急速な進歩を示す近代医学に対応した最先 端の医療と,それにふさわしい教育・研究を行うための設備や機能の充実を図ることが,30〜40年 を経た現病院の老朽化した施設では困難であることから,喫緊の課題であったわけです。かつて平 成6年度の補正予算で,1,346床の新病院を一気に建設する計画が,ほぼ決定の段階を迎えた時期 がありました。しかし残念なことに,病院地区は現地再開発し移転の対象から外すことが平成3年 に評議会決定されていたにもかかわらず,一部の学外者による病院地区移転の働きかけにより,再 開発が頓挫するという事態が生じました。その不幸な経緯を経て,5年後の昨年2月に着工の運び となったのです。全体計画は鉄骨鉄筋コンクリート構造で地上11階地下1階,延べ床面積約11万8千uを3期に分 け建築するものです。第1期工事の規模は延べ床面積5万3千uで,全病床1,346床の内の620床と 中央手術室,集中治療部,冠動脈疾患治療部,腎疾患治療部,周産母子センターをはじめとした外 科系の各センターや救急部,放射線部,リハビリテーション部などを擁し,免震構造で建設されま す。第一期工事は平成13年度に完成予定とされております。第2期工事で主として内科系病棟と各 検査部を完成させ,第3期工事の外来診療棟の完成まで着工から約10年の計画となっています。20 03年には医学部の創立100周年を迎えることになりますが,一日も早い最新鋭の病院の完成が望ま れます。
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最近の風潮は効率至上主義と言いますか,弱肉強食が大手を振って罷り通るいわゆる米国型社会 を讃美する,極めてぎすぎすした社会に変貌しつつあります。競争的環境下で,教育・研究の実績 を世界の中で競うことは,本学の望むところであり,これまで行ってきたことでもあります。しか しそれは人間の持つ新しいものを見出し深めるといった,知に対する飽くなき探求心のしからしめ る処で,決して利を求めることに発したものではありません。そうでなければ学問の薀奥(うんの う)を極めるという,大学の理念そのものが失われると確信します。
その一方で,本学をはじめ国立大学の社会への貢献度と存在意義を,国民に十分説明し理解して もらう努力が不足していたことは否めず,反省せねばなりません。これは,国民の血税のもとで自 由で自主的な教育・研究を進めることが課せられている我々の,当然の義務であったわけでありま す。本学がこのような社会の要請にこたえ,世界の研究拠点としてさらに飛躍するためには,組織 の整備だけではなく,そこに生きる教職員の意識改革と質の向上,そして優れた若い研究者の新た な力が必要であり,そのためにも教官選考や人事においても今後工夫が不可欠であると考えます。
最後に繰り返しになりますが,是非ともこの国立大学が迎えた未曾有の危機を好機と捉え,本学 の一層の発展を図ろうではありませんか。教職員各位と学生諸君の御理解と御尽力に,期待をいた しております。
(すぎおか よういち)