研究・教育のさらなる変革と活力維持を


 九州大学は大学院重点化の完了を待って,平成12年度から,大学院の教育研究組織である「研究科」 を再編し,教官の所属する研究組織「研究院」と,大学院の教育組織「学府」とに分離して,研究・教 育のさらなる変革と活力維持を目指します。「研究院」と「学府」という新しい二つの組織から成るこ の制度の概要と将来構想を,矢田副学長に解説していただきます。


新しい研究・教育システムとしての
研究院・学府制度について

副学長(大学改革・キャンパス移転担当)
矢 田 俊 文

 

完了する大学院重点化
 平成12年度には九州大学の「全学大学院重点化」が完了します。「大学院重点化」とは,「研究 科」の専攻を新しい時代に対応して再編・充実するとともに,学生定員を見直し,従来「学部」に あった教官の所属組織である「講座」を大学院に移すことにより,大学院の重点的整備を行うもの です。

 九州大学では,平成7年3月に「九州大学の改革の大綱案」を評議会決定しました。これは,九 州大学の長期計画を自ら策定したもので,全国の国立大学でも例のないものです。ここでは,全学 の大学院重点化と附置研究所の全国共同利用化・中核拠点化を推進し,研究・教育水準の飛躍的向 上を図ることによって,九州大学を世界の学術研究・教育拠点(センター・オブ・エクセレンス) とすることを改革の最大の柱として提起しました。

 こうした改革の流れは,平成6年4月に比較社会文化研究科,数理学研究科という学部を併設し ない「独立研究科」が,教養部の廃止と連動して創設されたことに始まり,8年4月のシステム情 報科学,10年4月の人間環境学と相次いで新しい研究科が発足し,10年4月に再編された総合理工 学と合わせて,5つの「独立研究科」が整備されて本格化しました。さらに,学部を併設する研究 科の重点的整備も,9年4月の医学系と工学の各研究科から開始され,その後,理学,生物資源環 境科学,法学,薬学の各研究科が続き,さらに12年4月には,人文科学,経済学,歯学の各研究科 が加わることによって「全学大学院重点化」が完了し,名実ともに「研究大学」となります。

 

全国初の「研究院制度」
教育と研究の分離と柔軟な連携
 「全学大学院重点化」は,わが国では東京大学,京都大学,東北大学,北海道大学,大阪大学, 名古屋大学などの基幹大学や東京工業大学,一橋大学などでも平行して進んでいます。九州大学で は,こうした全国的流れと軌を一にするとともに,平成12年4月の「全学大学院重点化」の完了と ともに,全国でも初めての「研究院」制度を導入します。これは,大学院の教育研究組織である「 研究科」を再編し,教官の所属する研究組織である「研究院」(Faculty)と大学院の教育組織とし ての「学府」(Graduate School)を分離し, 相互の柔軟な連携を図るものです。「大綱案」では, 「時代を先取りし, 自律的に変革し, 活力を維持し続けるシステムが内部にビルト・インされ, か つ国際的にも社会的にも開かれた研究大学の構築」を改革のコンセプトとして掲げましたが, 「全 学大学院重点化」が「研究大学の構築」の核となるものであり, 「自律的に変革し, 活力を維持し 続けるシステム」の核となるのが「研究院」制度の導入です。

 21世紀には,バイオや情報などの科学技術の目ざましい発展,地球環境問題の深刻化,グロバラ イゼーションという国際競争の激化,異文化の交流・対立の複雑な交錯など,激動かつ不透明な時 代が到来します。こうした人類的課題の解決に寄与する科学技術や学術文化の発展,時代をリード する優れた人材の育成において,「知」の創造拠点としての大学の役割はますます大きくなってき ます。何世紀にもわたって蓄積されてきた「人類知」である学問の継承・発展が一層重要となると ともに,従来の学問分野を大きく越えた次代の先端的・学際的研究者育成システムの改革が急務と なります。

 従来の大学院では,「研究科」という形で研究組織と教育組織が一体となっており,新しい人材 を育成する必要から「研究科・専攻」を再編する場合,教官組織の再編を不可欠とし,「講座」の 分割・移動を余儀なくされてきました。教育組織と研究組織の再編が矛盾なく行われた「改革」が ある一方で,教育組織に引きずられて研究組織が解体され,研究機能に負の影響を与えたり,逆に, 研究組織の強い抵抗にあって教育組織の再編が断念されたことも,全国的にみれば決して少なくあ りませんでした。こうした,教育組織と研究組織の再編における「摩擦」は,大学院生という次代 の研究者を育成する組織と,研究機能を効果的に発揮する合理的な研究組織とが常に一致するわけ ではない,ということに起因しています。

 「大綱案」では,早くから教育組織と研究組織の分離と柔軟な連携という新しいシステムの提案 をし,これを受けて平成11年5月に学校教育法が改正され,大学院に「研究科以外の教育研究上の 基本となる組織を置くことができる」(第66条)という規定が盛り込まれました。これを機に,九 州大学では,大学院の教育組織と教官の研究組織をそれぞれの必要から独自に再編できるように, 両者を分離することにしました(図1)

図1(九州大学の「研究院」構想)

 もちろん,教官の研究組織としての「研究院」と研究者育成教育組織としての「学府」は,「研 究」という共通の基盤をもっていますので,両者の組織編成が大きく異なるわけではありません (図2)。 しかし,例えば,学際的人材の育成として設置された比較社会文化学府のように,比較社 会文化研究院に所属する教官とともに,人文科学,法学,経済学,言語文化の複数の研究院に所属 する教官が正式の担当教官として教育に当たる組織編成もあります。なお,学府と研究院が1対1 に対応している場合においても,学府の中の「専攻」と研究院の内部の「部門」では,その構成が 異なっています。特に,人文科学府と人文科学研究院,理学府と理学研究院などでは,専攻と部門 は大きく異なっています。研究組織と教育組織の分離と柔軟な連携は,すでにいろいろな形で始ま っています。

図2(学府・研究院・学部の編成)

 さらに,研究院と学部の関係では,研究院と学部が1対1で対応している場合と,複数の研究院 に所属する教官が共同して一つの学部の教育に当たる場合があります。例えば,理学部の教育は, 理学と数理学の研究院の教官が,工学部の教育は工学とシステム情報科学の研究院とともに,総合 理工学,人間環境学,数理学の各研究院の一部の教官が責任を持ちます。文学部も人文科学研究院 の教官とともに,人間環境学研究院の一部の教官が教育責任を共有します。

 

さらなる変革への期待
 「大綱案」では,こうした教育組織と研究組織との分離により,組織の再編が柔軟に行われるよ うになることから,全学の教官の参加による「自由学部」や,複数の関係研究院の協力による「生 命科学府」の創設を構想しており,今後,新しいシステムのもとで新学府や新学部ができていくも のと思われます。また,学府内の専攻や学部内のコースは人材育成上の必要から,また,研究院内 の部門・講座は研究分野の動向を考慮して,それぞれ独自に再編することが可能となり,「自律的 に変革し,活力を維持し続ける」九州大学づくりの条件が整ったことになります。

 もちろん,九州大学の研究と教育が飛躍的に発展し,世界的な学術研究・教育拠点(センター・ オブ・エクセレンス)となるのは,新しいシステムのもとでの研究・教育内容の「改革」如何であ ることは,言うまでもありません。

(やだ としふみ)