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10Kyushu University Campus Magazine_2010.5楽だったとは言えないと思いますよ。今も昔も同じように、人間は欲望に振り回され、恋に悩み、不安に駆り立てられていると思いますよ。―それでもやはり、心に迷いを生じて悩んでいる現代人に対して、上手に生きるコツを教えていただけませんか。北山 優秀なカウンセラーが九州大学から育っています。心に苦しさを感じたら、是非カウンセリングを受けてみてください。―カウンセリングというと、なんだか敷居が高いという気がします。北山 そんなことはないと思いますよ。昔は、皆が生活している共同体の中に、悩みがあったら相談できる人たちがいましたよね。例えば神官とか長老だとかです。ところが近年になって、共同体から外に出ていく人々が増えて、生まれ育った土地にずっと住むということがなくなったために、こういった心の問題を取り扱っていたシステムが機能しなくなってきたんですね。そういう点では、私たち精神分析家は、昔の共同体の中にあったカウンセリングサービスを引き継いでいるんだと思うんです。占い師だとか、宗教家なんかもある意味そうかもしれません。―そういう意味では、皆が心の専門家に気軽に相談できる空気がもっと広がればいいですね。 北山 そのためには、やはり私たち自身が陰に隠れていないで、皆さんの前に出て自己紹介していないといけません。でないと皆さんも訪れにくいでしょう。どこに相談したらいいのか迷っている人たちに対して、私たちが何をやっているのか、そしてその有効性はどうなのかといったことを常に公開し、理解が得られるようにしていかなければいけませんね。私がどうしてメディアの取材を受けているのかというと、そういうことなんです。精神分析家がどんなことを考えているのかを皆さんに知ってほしいんです。これが私たちの広報活動です。―その点では、先生も所属していらっしゃる日本精神分析学会のホームページは、精神分析についてとてもわかりやすく解説してあると感じました。ところで先生はご退官後、再び開業医に戻られるそうですね。北山 精神分析の実践に戻ります。音楽も好きですが、精神分析をやることがやはり私は一番好きです。余力のある限り続けていきたいと思っています。また後継者の育成にも努めたいと思います。教えることは、人を育てるということですし、やりがいのある仕事です。―このたびは、伊都キャンパスの嚶鳴天空広場(おうめいてんくうひろば)のイメージソングの作詞も手掛けられましたが、その経緯はどういうものだったのでしょうか。北山 私が以前から作詞をしていたことは関係の方々もご存じだったと思います。いよいよ退職となると、せっかくだから作ってもらおうということになったんでしょうね。あの歌には「いつもここで待っていて」というフレーズが繰り返しでてきますが、これには、もうこれ以上九州大学に動いてほしくないという思いが込められています。もう伊都から他へは動かないでほしいという思いです。―最後に、九州大学に一言メッセージをお願いします。北山 精神医学や臨床心理学は、狂ったとか、停滞しているとかといった、異常な心の状態を取り扱う学問です。それは、中央が求める、正常だとか効率だとか数値だとか、そんなことからはみ出しているもの、排除されてしまっているものです。このようなことを取り扱うところは、中央から離れた九州大学あたりがいいんではないでしょうか。私は九州に誘われたとき、中央ではなくてここに臨床の花が咲いているという気がしたんです。だから中央の真似をしてはだめなんです。むしろ中央では受け入れられないものを取り扱うことで日本一、あるいは世界一になる可能性があるんですね。この意義を大切にしてほしいと思います。「周辺」だからこそ生まれる包容力を大切にし続けてほしいと思います。嚶鳴天空広場の様子インタビューシリーズ・九大人 北山 修

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