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18Kyushu University Campus Magazine_2010.5竹村 俊彦エアロゾルの健康に対する影響のほうに関心がいくかもしれません。しかし、エアロゾルは気候変動を引き起こす大きな原因物質の一つとしても位置づけられています。南里 大気中に普通に浮かんでいる小さなエアロゾルと気候変動とがにわかに結びつかないのですが。竹村 エアロゾルは、気候に対して直接効果と間接効果を及ぼしています。まず、直接効果はエアロゾルが太陽光を散乱、吸収していること。太陽のエネルギーは地球に降り注ぎ、赤外放射として地球から出て行くことで気候のバランスが保たれているのですが、エアロゾルはエネルギー収支に影響を与えており、その相互作用を研究する必要があります。間接効果は、雲との関係です。実は大気中に浮かんでいる雲は、水や水蒸気だけでは存在しえません。エアロゾルなどゴミみたいなものが核になって、その周りに水や氷が凝結して雲になるのです。ですから、人間活動により、排出されるエアロゾルが増えると雲の性質が変化するし、雲は成長して雨として落ちてきますから、雨の降る確率も変わってきます。そうした効果と気候モデルとの相互作用のプロセスを入れ込んで、気候の影響を評価できるモデルを作っています。「全球エアロゾル輸送・ 放射モデルSPRINTARS」をベースに南里 かなりいろいろな方程式が混ざっていそうですが、すでに「全球エアロゾル輸送・放射モデルSPRINTARS」という地球規模での三次元分布をシミュレートするためのモデルを開発されていますね。竹村 エアロゾルは、大きさを持っているので必ずどこかで落ちます。どこから発生してどういうふうに風の流れに乗って、拡散して落ちてくるかという一連の輸送プロセスを計算するのが「SPRINTARS」(http://sprintars.net)です。ただし、気候システムは複雑で、カオティック。様々な系との相互作用を取り込まないと研究が進展しないので、広範の知識や視点を求められます。私の研究分野に限ったことではないかもしれませんが、特にエアロゾルに関する研究は、今後も理学、工学、農学、経済学、医学など関連領域が一層広がっていきそうです。南里 研究を阻む最大の壁は何ですか。竹村 シミュレーションですから、定量的に妥当なものかどうかを検証しなければなりませんが、エアロゾルは観測値の蓄積が乏しいことが最大の壁になっています。二酸化炭素は大気中での寿命が長いのに対して、エアロゾルは大きさにもよりますが、平均して数日から一週間。そうすると一地点で観測したとしても、周辺を代表している観測値かどうかもわかりません。広いエリアで観測するためには人工衛星が有効になってきますが、人工衛星ですら、たかだか二十年ぐらいの蓄積しかなく、困難を極める研究ではあります。南里 竹村先生は短期の天気予報もするのですか。竹村 私の興味の対象は気候変動なので、比較的長いスケールの現象を追っているのですが、例えば、経済活動の激しい中国からの越境汚染。これは東シナ海を渡って一日、二日単位でやってくる現象ですが、これも守備範囲です。短期のほうはやはり観測値が集まりやすく、検証しやすいですね。南里 研究の難しさはやはり検証ですか。竹村 それともう一つ、気候モデル全般に言えることですが、エアロゾルに関しても、どこまで詳細にやるか、どこまで簡略化していいかといった、さじ加減が難しいですね。核になりやすいエアロゾルがどんな種類でどんな大きさかといったことはある程度わかっているのですが、物理的に方程式で表現するとなると難しいわけです。形状も影響してきます。エアロゾルは球をイメージされるかもしれませんが、黄砂は砂粒ですから、球体ではないですし、煤も単独では丸いですが、チェーン状に繋がっています。どれが典型かを捉えるのも難しいし、さらにそれが雲粒とどう相互作用しているかは、一つの理論だけでは表現できません。正直、やればやるほどわからなくなるという時もあります(笑)。だからSPRINTARSホームページでのエアロゾル週間予測の一例

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