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6Kyushu University Campus Magazine_2010.5―米国の学生は講義の最中でもどんどん質問しますよね。倉地 そうなんです。変な英語を話していると笑われますし、質問には即座に答えないと軽く見られます。教える方も必死にならざるを得ません。実は米国で私の英語を真の意味で磨いてくれたのは講義を行うことでした。学生も授業中に居眠りはしません。米国では、講義でのコミュニケーションとインタラクション、対話の中で、先生と学生が切磋琢磨する感じです。―若手研究者の育成という点ではいかがでしょうか。 倉地 もちろん米国にも悪いところはたくさんあります。でも、私がすごいな、と思ったのは、Ph.D.の学生に対しては、授業料、生活費、健康保険まで手当てをして、それこそポスドクよりお金をかけて育てていることです。私も最初は、なぜそこまでするのか腑に落ちませんでした。けれども、こうやって将来の国のリーダー達を育てているのだということに気が付いたのです。米国では、学部レベルでは間口を広げて学生を受け入れますが、大学院では、厳しい選抜を行って獲得した優れた学生を徹底的にトレーニングします。真のエリート教育ですね。新しい皮袋には新しい酒を入れてほしい―2001年に日本に戻られた後、外部評価委員や経営協議会委員として九州大学に貴重なアドバイスをいただいてきました。あらためて九州大学、そして若手の研究者に向けてメッセージをお願いします。倉地 九州大学の委員を本格的にやり始めたのは故・杉岡総長の時です。トータルで12、13年はやっていると思います。その間、九州大学は伊都キャンパスという、他の大学では得られない貴重な機会に恵まれました。だからこそ、新しい皮袋には新しい酒を入れてほしいのです。古くても芳醇な香りを持つものは保持するとして、カビが生えたようなものをわざわざ入れるようなことは絶対やるべきではないです。九州大学は私の母校であり、だからこそもっと良くなってほしいという気持ちは常に強く持っています。―九大SSP(次世代研究スーパースター養成プログラム)では、外部有識者委員会委員長も務めていただきました。倉地 九大SSPに選ばれた若手研究者はとても優秀ですが、まだ原石でもあります。来年度にテニュアの評価が行われますが、注目しているのは、論文数などよりも彼らの持っている可能性です。彼らはまだ充電期間にありますが、既に秘めている能力を感じさせる人がいます。まだ形に表れないポテンシャルを含め、部局では十分見極めて評価してほしいと思います。―倉地先生の研究者としての軌跡は、自らポテンシャルを引き出していった見本のようなものですね。倉地 渡米後に頼る人を失いましたが、それでも帰国せず、米国で研究するというリスキーな道を選びました。今では結果的に楽しかったというのが実感です。人生万事塞翁が馬。転んでも、ただでは起きない、わらを掴むくらいのたくましさがあれば、それが好機を呼ぶのだと思います。失敗を怖れていては、何事も成せません。大成功した人の話よりも、自分の失敗体験の方がずっと役に立つとも言われますが、いつも物事をポジティブに考えることは大事で、正の思考スパイラルに入っていくべきです。もう一つ大切なことは、楽しい気持ちを持つことです。私は学生時代、航空部に入りグライダーに乗りましたが、ワシントン大学に行ってからは実際にセスナ機の操縦訓練を楽しみました。また大学の剣道部の部長もやり、スキューバダイビングやゴルフもさんざん楽しみました。楽しいことをすると、自然に元気が出てくるものです。私はノーベル賞には遠く及ばないですが、幸い一つ一つの研究をしっかり満足できるまでやってきたという充実感は持っています。若手研究者の皆さんには、志を高くして、自分自身に充実感が持てるような研究を行っていってほしいと思います。インタビューシリーズ・九大人 倉地 幸徳

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