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10Kyushu University Campus Magazine_2010.9特別対談 宮川繁×安浦寛人 OCWは、世界中の人が 安心して使える知的財産安浦 この度は、本学の人文科学府での集中講義にお越しいただき、誠にありがとうございました。宮川 はじめての集中講義でしたが、大変楽しい時間を過ごせましたよ。井上 ところで、宮川先生はMIT(マサチューセッツ工科大学)のOCW(オープンコースウェア)推進責任者の一人でいらっしゃいますが、今日は、そのOCWについてお伺いしたいと思います。そもそも、なぜMITがOCWを始められたのでしょうか。宮川 2000年に、当時MITの学長だったチャールズ・ベスト氏が、私を含む数名の教員を集めて、MITのEラーニングの提案をしてほしいと言ってきたんです。2000年と言うと、まだアメリカのバブルもはじけていませんでしたから、ベスト学長は一つのビジネスを起こすことを想定されていたんだと思います。最初は、私たちもMITの教材を売る方向で考えていました。しかし、既にEラーニングを実施している大学を調査してみると、大学が教材を品物としてビジネスを起こすのは非常に厳しく、なかなか成功していないことがわかったんです。また、教材を売るということは、教材を直接お金につなげることになります。教材は教育につなげるものでなければ、教育者としての理念が根本的に変わってしまう。それでEラーニングの提案は止めようということになりました。しかし、学長には何かそれに変わるものを提案しなければなりません。そこで、教育者の理念を損なうことなく、MITの教材を提供できる方法はないかと考えていくうちに、OCWという発想が生まれたのです。無償で、誰でも自由に我々の教材を使えるようにするというもので、Eラーニングとは全く逆のものでした。安浦 提案された時、学内の同意はすぐに得られたのですか。宮川 学長がトップダウンで進めると必ず失敗します。ですから、教員にはボランティアの形で参加してもらうことにしました。そして、私たちが、教員や学生にOCWについて説明してまわることにしたんです。学生からは、自分たちが学費を払って受講している教育を、なぜ無料で提供するのかと言う意見もありました。しかし、教育は選ばれた学生たちが、大学生活を共有する中で受けるもので、教材はその一部でしかありません。ですから、OCWはMITの教育を提供するものではないと説明しました。そうやって誤解を解いていくなかで、教員や学生の同意を得ることができたのです。安浦 先生たちが出版される本や教科書は有料ですが、同じ教材を無料でOCWに提供することに議論はなかったんでしょうか。宮川 OCWに提供してもらうのは、シラバスと講義ノートが中心です。教科書とは違います。中には、試験問題や学生への宿題を回答と一緒に提供する先生もいました。最近は、ビデオレクチャーも増えて、面白い教材が出てきていますよ。安浦 教科書が時代を超えた普遍的な情報を提供するのに対して、OCWは日々変化するライブな情報を提供するということでしょうか。宮川 そうです。MITには現在、学部・大学院入れて、2000科目の授業がありますが、5年かけて、ほぼ全ての科目をOCWに公開することができました。安浦 先生によって量とか内容に差があるんでしょうか。宮川 ありますよ。何を提供するかは先生たちの自由ですから。ただ、初期の段階で公開した教材より、最近公開した教材の方が良くなってきています。毎月、約100万の人たちが、世界中から見に来ていますからね。先生たちも、一生懸命教材を作るようになったんですよ。OCWにより、世界中どこからでも講義映像や講義ノートにアクセスできる。(写真は宮川教授の講義 MITのOCWより)

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