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18Kyushu University Campus Magazine_2010.9吾郷 哲朗産生と消去のバランスが崩れることが、様々な病気の原因につながっていると考えられています。河合 先生が活性酸素の研究を始められたきっかけをお聞かせください。吾郷 私は医師になった4年目から基礎研究を始めました。たまたま大学院生として配属された生化学研究室の研究テーマが、NADPH oxidaseという02--産生酵素についての研究だったんです。この酵素は好中球に強く発現し、活性酸素種を発生することで殺菌作用に重要な役割を果たします。大学院の4年間はこの酵素の研究をして、学位もとりました。そこがスタートですね。河合 では、先生のテーマである心血管疾患における活性酸素種の研究はいつ頃から始められたのですか。吾郷 大学院を修了し臨床に戻った頃、全世界的なゲノムプロジェクトが終わり、その成果として、好中球のNADPH oxidaseと類似したタンパク質(ホモログ:Noxと命名)が次々に見つかったんです。私は、その中に心血管系に多く発現しているものがあるに違いないと思い、臨床の傍ら研究を進めました。その結果、心血管系の細胞に、 Nox4というタンパク質が多く存在することを発見しました。心血管細胞では、ミトコンドリアでのエネルギー産生も多く、活性酸素種が多く作られています。ミトコンドリアとNox4に何か因果関係があるのではないかと思ったんです。留学先でこの研究を進展させ、Nox4がミトコンドリアに局在し活性酸素種を産生すること、さらに、ミトコンドリアのタンパク質を酸化することでミトコンドリア機能を障害し、活性酸素種の産生を増加させる悪循環が生じることなどを、細胞・ 個体レベルの実験で示し、現在そのような仮説を提唱しています。河合 Nox4とはどのようなタンパク質なんですか。吾郷 細胞膜を6回貫通する形で存在する膜タンパク質の一つです。もともと腎臓に多いタンパク質として発見されましたが、いまでは血管系を中心に多くの細胞に存在していると考えられています。高血圧や糖尿病などいわゆる生活習慣病の状態になると、心血管系細胞では増加してきます。でも、その生理的意義については全くわかっておらず、これからの研究課題です。河合 具体的な研究は、どのようなプロセスで行われたのでしょう。吾郷 私は、分子細胞生物学的な手法を得意にしています。興味ある分子のcDNA(遺伝子)をクローニングして、人工的な組み替えタンパク質を大腸菌で作ったり、アミノ酸を置換した変異タンパク質を作ったりして分子の性質を調べます。次に、血管内皮細胞や心筋細胞などの培養細胞を使って細胞内での役割を解析します。最終的には、動物個体中で、目的のタンパク質がどのような役割を果たしているのか、遺伝子操作したマウスを作って、動物が一体どんな病気になるか、というところまで実験しています。アメリカ留学時代に、 動物モデルでの実験に成功河合 動物モデルの実験は留学先で行われたそうですね。吾郷 大学院以降、私は分子細胞生物学的手法にはかなり精通していましたので、留学でじっくりと実験する時間を得ることができたなら、興味を持つ分子の個体での役割について、遺伝子操作した動物を使って実験をしてみたいと思っていました。それが、私の留学先での大きな目標でした。

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