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19Kyushu University Campus Magazine_2010.9河合 ニュージャージー医科大学を選ばれたのはなぜですか。吾郷 海外留学してみたいという希望はありましたが、いざ留学先を決めるとなると、コネとカネの問題が大きな障壁となりました。そんな折、留学先を探す目的で参加したアメリカでの学会で、九大のOBでもある佐渡島純一先生(ニュージャージー医科大学教授)にお会いしました。私自身の研究内容をお話し、留学先を探していると話したら、自分のところに来ないかと誘ってくださいました。話を聞くと、活性酸素種と心臓病についての研究を、動物モデルを使ってされていて、私がやりたいと考えていたNox4の遺伝子改変動物を作る実験も許可してくれました。佐渡島先生のラボへ留学することを決断しました。河合 慣れない土地での研究は、苦労も多かったのではないですか。吾郷 まずはお金に苦労しましたね。給料はそこそこ出して頂けましたが、大都市圏での生活は家賃と教育費が高く、これだけで給料のほとんどが消えてしまいました。私は、運良く上原記念生命科学財団から海外留学助成金を二年間もらっていましたので、なんとかやっていけましたが、子どもを連れて留学するのは、結構大変でした。河合 研究面においての苦労もありましたか?吾郷 技術的な面での苦労は、そんなにありませんでしたが、限られた時間の中で成果を上げないといけないので、連日夜中まで必死で実験しました。世界的な心臓学会AHAで、『Katz Award』を受賞河合 その研究成果が評価され、2007年に、『Katz Award』を受賞されていますが、この賞はどのような賞なのでしょう。また、受賞された時のお気持ちはいかがでしたか。吾郷 毎年一回、アメリカで世界的な循環器病学会、AHA(アメリカ心臓協会)が開かれます。そこで、その年の最も優れた若手基礎研究者に贈られる賞が『Katz Award』です。書類選考で5名が選ばれ、学会中に発表し質疑をこなします。練習の成果もあり、プレゼンテーションは上手くできたのですが、質疑では、質問の内容を聴きとるのに精一杯で、しっかり答えられませんでした。絶対駄目だと思っていたので「Winner is Tetsuro Ago」と呼ばれた時は、感極まるものがありました。この賞は、佐渡島先生とその師である出雲正剛先生も受賞されていて、3代続けての受賞になったんです。このこともうれしかったですね。河合 研究のどのようなところが評価されたのでしょうか。吾郷 活性酸素種が細胞の中で過剰になると、ある特定のタンパク質が酸化されてしまい、そのことで、立体構造に変化が生じ、細胞内の局在が変化することを見出しました。この現象が生じるだけで心臓肥大が生じることを、細胞と個体のレベルで証明しました。タンパク質酸化・還元制御の立場から心臓肥大のメカニズムを明確にした点を評価いただいたように思います。河合 佐渡島先生のもとで研究したメリットはどのようなことでしょう。吾郷 佐渡島先生は、留学後そのままアメリカに残られ、大変なご苦労の上に現在の地位を築かれた方です。アメリカでは、グラント(研究補助金)を獲得することがラボを運営する最低条件となります。グラントが

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