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5Kyushu University Campus Magazine_2010.11ーー開業しようと考えるようになられたのはいつ頃からですか。水上 在学中から、自分は机に向かうよりも臨床の現場の方が向いているなとは思っていました。大学を卒業する頃には、早く現場に出て、30歳までには歯科医師として一人前になりたいと考えていました。そして、ほぼ30歳で開業してからは、5年毎に「こういうレベルに達していたい」という自分なりの目標を立てて、達成できたかどうか自分で評価するようにしていきました。自分の足跡を振り返り、評価するのも大切なことだと思います。ーー当時は学生診療室で治療もできていたんですね。水上 今とは違って、私の学生の頃は、学生診療室で実際の治療をひと通り経験することができました。それで、卒業時には一人である程度の歯の治療はできるようになっていました。卒業して2ヶ月で沖縄に行ったんですが、「卒業してすぐに、よくこんなに治療できるね」と、周囲からも感心されたものです。とはいっても、悪い所を削って詰めものをするといったような従来の「歯医者さん」的な仕事は、まじめに取りくんでいればすぐにできるようになるんですよ。けれども、歯科医は人を相手にする仕事であって、本当の意味で歯の治療ができると言えるようになるのは、それからです。患者さんの抱えている問題が何なのか、将来どういうことが予想されるのか、そういったことをトータルに見た上で一本の歯の治療をする。これが理想像なんですね。そういったことを考えると、やはり経験が必要で、歯科医は、40歳くらいで最も良い仕事ができるようになると言えるんではないでしょうか。いずれにしても、開業するつもりなら、卒業してからの10年をどう過ごすかです。10年なんてあっという間ですからね。ーーそういう意味では、患者さんときちんと話ができるということも大切なスキルなんですね。水上 患者さんも人間です。私たちの説明の仕方で、受け取り方は変わるし、受ける印象も違ってきます。私たちがこの治療がベストだと思っても、患者さんが受け入れてくれなければそれは実現しません。私は、どう説明すれば、自分の考えている治療を受け入れてもらえるかを、日々考えて患者さんと話をするようにしています。毎日、何十人という患者さんに、「問題はここで、こんなことをしたら改善できますよ」とプレゼンしているようなものなんですね。だから私の病院では、スタッフに自分の考えを発表させる場を作っています。自分の考えを適切に相手に伝える訓練です。こうした経験は、必ず患者さんの診療に役に立つと信じています。それと、歯科の関係者は、どちらかというと、狭い世界の中で過ごしがちなんですね。大学でも、教養を学んでいるときは別として、それ以外はずっと歯学部の建物にいますし、卒業しても歯学部の周辺で過ごすことが多いですからね。九大というより歯科の器の中で暮らしている感じです。こうして専門に特化して深く入り込んでしまうと、社交性を失いがちになるんです。九大の歯学部出身者には、優秀な方がたくさんいらっしゃいます。でも、あまり表に出ていかないものですから、いい仕事をしているのにそれ(左から) 水上先生、吉本さん

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