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20Kyushu University Campus Magazine_2011.1比良松 道一比良松 農業試験場にいた時代は、福岡県産米の「夢つくし」の品種改良など、地域ブランドを作るプロジェクトに携わっていました。かいつまんで言えば、「コシヒカリ」より味が良くて育てやすいお米を作るような研究です。でも、もともと「コシヒカリ」は味が良いわけで、90点のものを91点とか92点にするような改良を繰り返しても、農業の根本的な問題の解決にはならないんじゃないかという疑問を持つようになりました。将来の農業につながる基礎研究は、すぐに結果は得られません。でも、大切な研究です。そのような研究は、大学の方ができるのかもしれないと思っていました。そこへタイミング良く、九大からの誘いもあり、大学に戻ることにしたんです。子どもたちの生きる力を育む「弁当の日」との出会い石川 教育にも興味をお持ちになっていたのですか?比良松 いいえ、最初は教育より研究に興味がありました。教育に興味を持ったきっかけは4年前。研究室の女子学生が、弁当を作ってきて一緒に食べようと誘ってくれたんです。それは「弁当の日」という活動で、香川県の小学校の校長先生・竹下和男さんがはじめた取り組みでした。小学生たちが、誰の手助けも受けずに一人で弁当を作る。ただそれだけで、どんどん人の気持ちがわかるようになり、たくましく、優しくなっていくと聞いたんです。それで竹下さんが書かれた本を読んでみたのですが、そこに書かれていた校長先生の言葉や生徒の作文を読んでいたら涙がポロポロこぼれてきて、この感動は、学生たちにも味わってほしいと感じました。 子どもたちは弁当を作ることで、それまで見えていなかった、母親や給食を作ってくれている人たちの大変な苦労に気付くんです。そして、自分がいかにいろんな人に支えられて生きているかを知り、自ずと感謝の気持ちを持つようになります。さらには、田畑で仕事をする人を見て、同じような気持ちを抱けるようになるんですね。石川 「弁当の日」をきっかけに、子どもたちがいろんな方向に目を向けることができるようになると言うことですか。比良松 そうです。「子どもに魚を与えるのではなくて、釣り針を与えなさい」と言う言葉がありますが、まさにそう。結果を得るまでのプロセスにも大切なものがたくさんある。知識を詰め込むだけではなく、実際に体験することも大事なんだと。これは今の大学生に対しても言えることだと思います。命のつながりを作り、おいしい野菜を育てる石川 ところで、野菜の作り方の研究も進められているようですね。比良松 はい。「野菜は作り方で味が変わる」ことを提唱されている吉田俊道さんの講演会に参加したのがきっかけです。吉田さんは、同じ九州大学農学部の出身の方ですが、もっと人や環境にやさしい野菜作りができないかと無農薬・無化伊都キャンパスで開講している少人数セミナー「いのちの授業」では「弁当の日」に学生たちが手づくりの一品を持ち寄り、様々な思いを分かち合う。

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