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22Kyushu University Campus Magazine_2011.1米を作っても余るようじゃダメ。買う人がいなければ農業は成立しません。私たちは、農業をしなくても消費者として農業を支えることができるんですよ。今、私は、それを行動に起こしませんかと学生たちに問いかけています。買い支える消費者になってくださいと。石川 確かにそうですね。先生は今後、日本の農業のために、どんなことを学生に教えていきたいと考えられていますか。比良松 私にとって研究は言葉なんです。最初は、大好きな生き物と対話するために研究しているんだと思っていました。その研究と「弁当の日」や野菜作りの活動を通して、命とのつながりの中でしか私たちは生きていけないということを実感してから、この謙虚な気持ちを学生に伝えていくことが、私の使命のように感じるようになりました。人が幸せになるために一番大切な力は「他たきりょく喜力」石川 そういった活動が、大学生たちに影響を与えているなと思われることがありますか。比良松 たくさんありますよ。例えば、大学生の「弁当の日」は、おかずを一品持ち寄る形式をとっているのですが、弁当を作る時、学生は一番に何を考えると思いますか。石川 味ですか。比良松 そう思うでしょう。でも違うんです。彼らは、自分の作ったおかずを、みんなが残さず食べてくれるかということを一番気にするんです。学生は作った経験がほとんどないから自信がない。自分はおいしいと思っても、他の人がおいしいと思ってくれる保証がないから不安なんですね。だから、自分の弁当箱が空になった時、本当にうれしかったと言います。ある学生は、「母親にこれまでずっと食事を作ってもらっていたけれど、今日のはおいしくなかったなどと、文句ばかり言っていたことを反省しました。今日、母親に謝ろうと思います」と感想文に書いていました。親への感謝の気持ちが自然に生まれたんですね。その上、こんなにみんなが喜んでくれるんだったら、もっと喜ばせたい、次回はもっとがんばろうという気持ちも湧いてきます。 他の人を喜ばせる力を「他喜力(たきりょく)」と言いますが、人が幸せになるために一番大切な力だと言われています。それは、彼らが社会人になった時に、一番発揮しなければならない力なんじゃないかと思うんです。学生たちは、弁当作りを通して、そういった生きる力を養っているんだと思いますよ。誰かの役に立とうとする使命感を持ってほしい石川 最後に、九州大学の学生の皆さんにメッセージをいただけますか。比良松 弁当を作りなさいと言いたいですが……(笑)。いずれは、自分の使命を見つけてほしいですね。夢とか希望を考える時、大半の人は、自分のことを中心に考えているんじゃないかと思うんです。そうではなくて、誰かの役に立とうとする使命を持ってほしいんです。自分が生きている役割は何なのか、真剣に考えてほしい。そして、自分の能力を最大限に発揮できて、人を喜ばせることができる仕事や生き方を、ぜひ見つけて幸せになってほしいと思います。Profile比良松 道一インタビューを終え、(左) 石川教授、(右) 比良松助教比良松 道一 助教 プロフィール1989年 九州大学農学部卒業1991年 九州大学大学院農学学研究科農学専攻修士課程修了1991年 福岡県農業総合試験場豊前分場技師1993年 九州大学農学部附属農場助手2000年 九州大学大学院農学研究院植物資源科学部門助手2007年 博士(農学)2007年 九州大学大学院農学研究院植物資源科学部門助教 現在に至る

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