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14Kyushu University Campus Magazine_2011.3吉永 幸靖吉永 はい。マンモグラムという乳がんを検視するX線画像で、がんの回りに発現する白い筋を認識する画像を医師から要望されたのがきっかけです。医師に匹敵する柔軟性と感度を実現するために、「人が線と認識するものとはいかなるものか」という定義に立ち返って「線集中ベクトル場モデル」という概念を作りました。これは、技術の人間化を実現するために、人間の認識を技術化するという芸術工学の発想です。園田 「線集中ベクトル場モデル」とは、具体的にどのような概念なのでしょうか。吉永 画像の中にある「線」を濃い、淡いに関係なくすべて同様に扱うことができる計算機処理の概念です。極端な言い方をしてしまえば、「見えていない線」を見えるようにする技術と言えます。では、その「線」とは何だと思いますか。園田 数学で習った定義で言えば、「ax+by+c=0」ですけど(笑)。吉永 直線の方程式ですね(笑)。人が線と考えるものは大別すると2種類あります。一つはエッジと呼ばれる物と物との間の構造。もう一つは、他と比べて色が違ってかつ、細長く伸びている領域です。従来の計算機処理では、大きな「明るさの変化がある細長い領域」と考え、2次元微分ベクトルの強度(=明るさの変化の大きさ)を尺度として処理をしていました。ただ、この考え方では、微分強度が大きい濃くて目立つ線は、認識しやすいのですが、微分強度が小さい淡く目立たない線は、ノイズ等との区別ができなくなります。そこで、明るさの変化の強さではなく、明るさが変化する方向に注目したのです。これは2次元微分ベクトルの向きに相当しますが、この向きの分布に着目すると、線をなす領域ではベクトルの向きは中心に対して対向する分布を持ちます。このような向きの分布を「線集中」と呼んでいます。つまり、線とは「2次元微分ベクトルが線集中する領域」と定義することができます。これが「線集中ベクトル場モデル」の基本概念です。そして「領域の線らしさ」を数値化したものが「線集中度」。この概念に基づけば、淡くて見過ごしてしまいそうな線であろうと、明瞭なわかりやすい線であろうと、形が線でさえあれば、全く同じように扱うことができるのです。光工学の技術と連携した眼底画像の研究も進行中。園田 乳がん以外でも、この概念を展開されていらっしゃるのですか。吉永 はい。例えば、眼のX線写真では、血管が見えにくく、眼科医は血管がよく写るようになる造影剤という薬を用います。しかし、造影剤は重篤な障害を引き起こす危険が伴うため、線集中度を使ったデジタル造影画像を作ろうとしているのです。但し、デジタル画像では、形を認識することはできますが、血管が生きているかといった機能の情報はわかりません。そこで、光工学の技術を使って機能の情報を得ようとしています。この研究が実現すれば、人体に負担をかけずに診察ができるので、非常に有効に使えるでしょう。園田 これらの技術は、今後社会にどのように役立つとお考えですか。吉永 この技術が完成したら、画像に関するあらゆることの基本的な技正常眼底への線集中度フィルタによる血管検出乳がん病変部への線集中度フィルタの適用例

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