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17Kyushu University Campus Magazine_2011.3新しき挑戦者たち土井 洋平さん時間的にも費用的にもロスが大きい医薬品開発。 約2万個程の候補化合物から、医薬品として世の中に出るのはわずか1個。医薬品開発の成功率は極めて低いと言われています。開発には臨床試験が必要で、ラットや犬、猿などの動物で薬効や毒性の評価をする「前臨床段階」と、健常な成人男性で薬物動態を評価したり、実際の患者さんで薬効・安全性を評価する「臨床試験」に分けられます。前臨床試験段階で平均5~6年、臨床試験段階で7~10年もの時間を要するため、人による臨床試験まで進んだ後に、薬品開発がストップすると、開発側のダメージは甚大です。その解決策として今注目されているのが「マイクロドーズ臨床試験」。土井さんの論文テーマでもあります。医薬界で注目される「マイクロドーズ臨床試験」。 「前臨床試験段階でいくら動物を使って評価しても、人に投与すると予期しなかった薬物動態や副作用が発現して開発中止になることがあります。『マイクロドーズ臨床試験』は、前臨床段階で、薬効が発現される量の100分の1程度の薬の量を健康な成人に飲んでもらい、薬物動態を評価しようとするものです。前臨床段階で人特有の薬の動きを検証できれば、医薬品開発を続行するか否かの意思決定を迅速化でき企業のダメージを抑えるとともに医薬品開発をスピード化することができるんです」遺伝子多型においても、注目される見解を発表。 また、土井さんは、マイクロドーズ臨床試験」を評価する中で遺伝子多型による薬効の影響についても新たな見解を示しています。 「『遺伝子多型』とは、人口の1%以上の頻度で存在する遺伝子の変異のことです。遺伝子はその配列が一個違うだけで、体の機能が大きく変わり、薬の効き方にも差が出ます。この遺伝子多型の影響も、『マイクロドーズ臨床試験』で早い段階に評価できれば、その後の開発の意思決定を早めることができるのではないかと考えました」 そして、この研究過程で、薬の吸収に作用するSLCO2B1というタンパク質の遺伝子多型の影響を、人ではじめて明らかにしました。Youhei Doi06九州大学で学び、目指す分野を究めようとする次世代のプロフェッショナルを紹介します。今回は、昨年12月「第31回日本臨床薬理学会年会」において『マイクロドーズ臨床試験によるSLCO2B1遺伝子多型とβブロッカーの関連評価』という研究成果を発表し、優秀演題賞を受賞した薬物動態学分野の若手研究者にお話を伺います。薬学府 医療薬科学専攻 薬物動態学修士課程2年品開発に、投じたい。※1 「日本臨床薬理学会」とは、薬物治療の有効性と安全性を最大限に高め、患者さんに最良の治療を提供することを目指して、様々な活動を行っている団体。※2 「薬物動態学」とは、投与された薬がどのように吸収され、体の組織に分布し、代謝され、排泄されるのか、一定の時間内における体内での薬の動きを解析する学問。※1※2

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