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8Kyushu University Campus Magazine_2011.5もありましたが、今回の地震でもわかるように、まだまだそういう状況にはなっていません。 原子力利用についても、20世紀当初にはほとんどの人が考えもしていなかったと思いますが、原子力発電の建設が進み、今や、人類は第三の火を手に入れたとまで言われるようになっていました。しかしながら、今回の事故で、人類はまだ放射線を自在に取り扱う域には達していないということを思い知らされました。私たち人類は、科学技術を発達させたおかげで、何でもできるようになったと勘違いしがちであったかもしれません。私たちは、地球という大自然の中で生きているんだという現実をあらためて突き付けられたのだと思います。 確かにこの100年で、人類はこれまでにないスピードで科学技術を発達させてきました。しかしながらこの100年というのは、46億年という地球の歴史の中ではほんの一瞬です。今回の震災は、千年に一度とも言われており、想定外だったという方もおられますが、46億年という地球の長い歴史においては、もっと大きな地殻や気象の変動があってきたわけですから、私たちは、大自然に対する畏敬の念、そして災害対策という点では、もう一度考え直さなければなりません。38億年前に生まれたと言われる生命体が今までずっと続いてきているのであり、私たちは絶対にこれを途絶えさせることがあってはなりません。今生きている私たち一人一人が、努力をしていかなければなりません。 また、皆さんもご承知のとおり、世の中は、時代とともに変化していきます。私は、卒業後、当時の自治省に入省しましたが、当時の初任給は8,700円でした。それに対して、ある鉱業会社では、なんと27,800円でした。ずいぶん羨ましい思いをしたものですが、10年後にその企業は、公害に対する損害賠償金が払えずに倒産してしまいました。月は満つれば必ず欠けるといった諺もあります。華やかなものばかりに飛びつくものではないということで平成22年度 学士学位記授与式 来賓祝辞す。また、古代中国の思想書に「窮すれば則ち変じ、変ずれば則ち通ず」という言葉があります。窮すれば改革をして、そしてはじめて窮地を脱するんだということですが、「変ずる」という言葉が大切な意味を持っているのです。明治時代にできた会社のうち、時代に合わせて変ずることができなかったものは消えていき、変ずることができたものは残っています。 また、世の中の価値観も時代とともに変化していきます。私が入った自治省は、地方公共団体の中に入って仕事をするという役所であり、私の最初の赴任地は熊本県庁でした。そこではじめて知事の仕事ぶりを目の当たりにしたのですが、知事は、作業着を着て地下足袋をはいて、農家に出向き、「お米をたくさん作ってください」と言っておりました。また保健所では、栄養失調の農家の奥さんたちに、「栄養のあるものを食べなさい」、「子供を産みすぎると体を壊しますよ」と言っておりました。ところが私が知事になって言ったことはどうでしょう。「お米を作りすぎないでください」、「栄養の取りすぎに気をつけてください」、「子供を産んでください」ということです。いわば昔と全く価値観の異なることを言っていたわけです。政治や行政は、世の中の流れについていかなければなりませんが、やはり世の中の変化を捉える先見性というものが求められるのです。皆さんも、教わったこと以外のことでも積極的に勉強するという姿勢を持ち続けてください。そのための方法は大学で身につけているはずですから。私も現場でいろいろなことを勉強しました。大学で教わったことはすぐに社会で役に立つということにはならないと思いますが、九州大学で学んだという事実は必ずどこかで生きてきます。 皆さんにとって、心を含めた豊かな人生、そして輝かしい未来が開けていくことを心から祈念しつつ、皆さんの若い力で再び日本が元気な姿を取り戻すことを期待して、祝辞とさせていただきます。

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